曇天

映画 聲の形の曇天のレビュー・感想・評価

映画 聲の形(2016年製作の映画)
4.8
将也は小学生の頃、硝子をいじめる側の中心にいたが教師にいじめの真実を問われた際、他にいじめていた子達の裏切りに遭って、逆にいじめられる側に回ってしまう。そこで誰も信用できなくなって、高校生になっても自分の価値を認めることができないまま自殺を決意する。
高校の将也を見ていて、体は大人になってても考え方が小学生の頃のまま、純朴で何でも自分の考えに従って決めつけてる。ダメな感じが高校男子ならでは。一度自殺を決意しちゃってるから損得勘定もあまりなく、それこそ感情が麻痺してしまっているキャラ付けは珍しくて見入る。母親に死ぬのを止められたために、することもないから何となく硝子の友達探しを手伝って償いをしよう、という悪意のない目的で近づいてくるので、先に好きになるのが硝子の方っていうのもよくわかる。

意外と主役二人以外のキャラにもそれぞれ自分との戦いが描かれてて、見せ場も外さないし驚いた。結弦と永束は清涼剤的な朗らかさがあるし、佐原のジェットコースターでの台詞は将也の心情と重なって映画的だし彼女の見せ場。植野さんは話を動かす役を担ってる。多分一番反感がきそうな川井はいじめ構図の「傍観者」だったんだと思うけど反省も見られる。
橋の上の仲たがいシーンでは将也が見放される側だけど、仲間たちが腹の底で思っていることが観客にさらけ出されるのが皮肉で良いシーンだった。

「感動作」っていうレッテル貼られてしまうのもしょうがなくて、登場人物全員が全員問題を抱えていて、それを時間をかけて乗り越えるって話だから感動しちゃうのも当然。設定だけでも聴覚障害、トラウマ持ち、不登校、母子家庭、国際結婚と社会的弱者を扱うことに意識的。硝子の問題は聴覚障害ではなくて、他者との摩擦を避けるため愛想笑いをしたりすぐ謝って自分を悪者にする点で、そこを植野さんは嫌いだと言うんだし、自分自身を追い詰めることにもなっている。

将也が中心になって登場人物全員が自分の罪を認め贖罪していく話だけに、終盤は懺悔大会みたくなってちょっと食傷してしまうのだけど、贖罪は作品通してのテーマだからああなるのもしょうがない。ラストのあれはまあ予想できてたが、あれがどれほど感動的かはわかる人にしかわからないだろうな。

自殺モノでは『明日、君がいない』、トラウマを持つカップルで『ブラックスネークモーン』、ラストは『Vフォーヴェンデッタ』のナタリー・ポートマンが自分の弱さを克服するシーンを思い出し、それらと並ぶ映画体験をくれた作品になりました。原作と京アニに感謝。

#filmarks2016
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