たく

フリーダ・カーロ 愛と芸術に捧げた生涯のたくのレビュー・感想・評価

3.6
メキシコの代表的な現代画家であるフリーダ・カーロの激動の生涯を綴るドキュメンタリー。若いころに負った重症が彼女の人生を最後まで縛り付けるのが観てて辛く、もしこのハンデがなければ、彼女の激しい気性からどんなに活動的な人生を送っただろうという思いがよぎった。劇中に登場する数々の絵画について、彼女の絵をそのまま映すのではなくアニメーションに仕立てる手法が画面に躍動感を与えてて新鮮だった。

幼いころから絵に興味を示し、世界を彩ることに人生の意味を見出すフリーダの思考を、モノクロ画面に色付けすることで表現する演出が上手い。全体の構成が本人や関係者のインタビューではなく、彼女が遺した手記や詩や絵日記を基に声優が演じ、恋人や友人も同様の手法が採られてるので、ドキュメンタリーというよりは絵巻物みたいな印象を受ける。フリーダが若いころから女性らしさよりは男っぽい行動を取ってて、そこに何物にも縛られない精神の自由を求める性質が窺える。彼女がメキシコ絵画の巨匠であるディエゴ・リベラと恋に落ち、ニューヨークからデトロイトに移ってアメリカの産業の発展に魅入られたディエゴの下でなおざりにされてるのが、彼女の才能を考えると何とも歯がゆい。

フリーダが浮気し放題のディエゴに愛想をつかして自身も浮気をしていくんだけど、ここで彼女がバイセクシャルと分かるところがなかなか衝撃的。考えてみると彼女の自画像は性別を感じさせない、というかむしろ男性っぽい印象を受けて、自身の性的志向が作品に顕れてるのかもと思った。いい加減終盤まで彼女が画家として日の目を見なくてヤキモキした後に、ついにシュールレアリスム運動の有力者に実力を認められる展開になるところで、フリーダ自身がシュールレアリスムの概念も運動も全く知らなかったというのが面白い。彼女が現代画家の巨匠であるピカソやダリなどをまとめてクソとして愛想をつかすのが清々しい。その後何度も手術を重ねたフリーダが、ついに足を切断するに至る展開があまりにも辛いだけに、最後に安らかに死を受け入れる境地に達するところがある意味で救いになってた。
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