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死霊館 エンフィールド事件のaのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

・本作監督のジェームズ・ワンは、死霊館シリーズ1作目『死霊館』(2013)や『ソウ』(2004)『マリグナント 凶暴な悪夢』(2021)を監督もしており、最近ではアメコミ映画も大ヒットさせるという、とにかく全ジャンルにおいてオールマイティーに、腕利きの良い監督として知られている。そんな彼は本作がクランクインになる前、実は『ワイルド・スピード アイスブレイク』(2017)というワイスピ8作目の監督抜擢を先に打診されており、そこでは「人生を変えるほどの」金額を積まれてオファーされていたそう(ちなみに、同7作目の『ワイルド・スピード スカイミッション』は彼が監督しているのだが、これはワイスピ映画としては最も評価が高い)。


・しかし彼はそのオファーを断り、「怖いものを作って(キャンセルした分の)元気を出そう!」ということで、最終的に本作が制作されるに至った。おかげで本作は、ホラー作品の続編にしては異例の面白さを秘めている。ありがとう、ジェームズ・ワン。


・実在のウォーレン夫妻の話によると、本作が取り扱っている、エンフィールドで実際に発生した一連の事件は、夫妻がその生涯をかけて行なってきたポルターガイスト的活動の超常現象としては史上最長記録になったそう。確かに見ている最中も、その事件の時間的な長さについては明らかにトップレベルだったので納得した。


・ちなみに、本作序盤でウォーレン夫妻がテレビ上で霊的存在を否定する研究者と口論をしていたシーンの通り、ウォーレン夫妻による除霊の療法というのは存在からしてすでに好奇心をそそる上に、彼らは独特なカリスマ性も持っていたので、アメリカ本国でのテレビ的人気は非常に高く、誰もが知るスター的存在でもあった。


・しかし、その流行から半世紀が経った現在では、複数の事件で、それらが事件犯人と弁護士の共謀による資金目的の工作であることが判明していたりするので、いわゆるイタコや坊主と同じく、信仰心を利用した心理的療法に独自の魔術的・悪魔的要素を組み込んだ、一種のカウンセリングだったという評価が有力である。


・でも、自分が書いていてもちょっと気になってしまうくらいには魅力があるし、それを大きな聖堂の建物とかでされたらカウンセリングとしての効果は凄そうなので、一度やってほしい気持ちもある(バチカン市国に行くと今でも擬似体験ができると思う)。


・ウォーレン夫婦の妻は本当に「見える人」で、それを夫が悪魔研究家として都度解説していくという仲睦まじい格好だった。本作はジェームズ・ワンの、決して退屈させない、ホラーありの総合エンタメ映画のように盛り沢山な仕込みが満載であるのだが、その中でも特筆して嬉しいのが、ウォーレン夫が自分でギターを取り出して依頼人の娘衆
の前でエルヴィス・プレスリーのCan’t Help Falling In Loveを、なんとフルで歌い切り、妻がそれを涙目で眺めるシーン。かつてここまで歌の力に頼るホラー映画があっただろうか?そしてちゃんと泣けるという言語化できない感情の起伏もあり、これだけで満点だった。


・他にも、本作はおもしろ箱のような映画で、最初のジャンプスケアでホラーまでの要素をぶつ切りにして見せることで不安を煽られるかと思えば、はっきりと幽霊が可視化されてアクション映画のようにしっかり襲ってきたりと、観客を振り回す演出を、これまたとんでもなく動き回る(一体1シーン撮るのにどれだけ考え尽くしたんだろう…というようなシーンばかりである)カメラによって見せてくれる。


・またこれもジェームズワンの独自性としてすごいのが、「観客の視線をどこに注目させるか」を常に意識していて、故に長回しでも全員がどこを見て怖がっているのか(例えば消防車が往来するシーンでは、テントの中の暗がりそのものを端に映したり、あるいは映さなかったりすることで、位置として視線の誘導を行なっている)を把握した上で撮影しているのが、端的に凄まじい。


・本作の基になっている事件も実際には若い娘集が起こしたでっち上げであり、例えば娘が突如編成して悪魔の唸り声のようなものを出すシーンでは、彼女は元からとても深い声を作り出すことができて、それを利用して信じ込ませたのだそう。自分も小学校の頃仮病を装っていた時に、白熱灯の灯りの下で熱を測って、体温計が平熱で確定しようとする瞬間に白熱灯と体温計の先端を一瞬だけ接触させることで一気に体温を釣り上げて詐称することをしていたのだが、その仮病に対するクレバーさは今では絶対に発揮できない(体罰教師を嫌い過ぎて切羽詰まっていたのだろうと思うが、今では適当に休む)ので、子供の頃のくだらない情熱というのは侮ってはいけないのだと思う。


・前半は、ぶつ切りの演出の数々や突然の物音、静かなタメを常に作り出して不安を誘う(1作目で最初に犬が殺されているのに、本作でも犬がドアから出ていく姿をわざわざチラ見せしていたにするのは意図的だと思うし、非常にドキドキする)かなり『エクソシスト3』やその他ジャパニーズホラー的作品に寄せている気がした。一方後半は打って変わって、全ての伏線を全部回収しつつ最後は水中アクションまでしてくれるという、ワン監督のサービス満点撮影の連続。気前が良い監督、好きです。


・あのプレスリーの弾き語り以降、いつの間にかウォーレン夫妻の愛の物語と事件性が表裏一体の関係になってくる上に、後続する作品でも二人のドラマというのが多かれ少なかれ描かれることになる。本作のラストカットも、クリスマスツリーを背後におでこを合わせる二人の姿。吊り橋効果に同じく、これだけでも感動を起こしてしまうのは、エンフィールド事件自体が壮大なフリとなっているからなのだろうか…。夫婦で悪魔祓いを生業とするとか、絶対に仲睦まじくないと出来ないし、史実上も仲が良かったらしいので、これはこれでアリ(でも仮に思いついたとして、本当にこんなカットをやってのけるのは、後世にもワン監督だけだと思うし、そこが本当に良いところ)。


・総評。1作目のセオリーをそのままに3作目に流し込み、さらには往年の夫婦が愛を確かめ合いもしてくれるという、なんともサービス精神に満ちた、嬉しい映画でした。アナベルシリーズと本作、および同監督が手がけたワイスピでも痛感したのですが、監督が一人変わるだけで、画作りと面白さの要点は途端に変わってしまうし、それゆえどんな作品でもいろんな可能性を秘めているのだと、つくづく思います。例えば『アナベル 死霊館の人形』(2014)ではほぼ全くカメラが動かないのですが、本作はとんでもなくアクロバティックな動き方をするし、「普通」の映し方は意図的に避けています。監督力に圧倒される、怒涛の一本でした。
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