ヨシイコウタ

ダイ・ヤングのヨシイコウタのレビュー・感想・評価

ダイ・ヤング(2014年製作の映画)
3.8
青山シアターで鑑賞しました。無料で観れるだなんて嬉しいですね。

親と子の関係というのは、言うまでもないけれど友達との関係とは全く違う。どれほどその関係を切りたいと強く思ったとしても、だいたいはそれと同じくらい強い躊躇みたいなものが並んで生まれて歯止めを効かす。反抗期を通り過ぎた人で、そういう感じを経験した人はいくらかいるんじゃないかと思います。叫びたくなるほど親の行為にムカついて指先にむず痒ささえ覚えるほどなのに、傷つけるには躊躇してなかなか踏み切れない。

しつこいくらい肩に腕を回してくる父を、思い切って突き放すことができなかったヴァンサンの気持ちがなんとなくわかったような気がして、彼を近くに感じました。何かが暗い胸の中で静かに煮えているような感覚、懐かしいなあと思っていたら少し蘇ってきてあわててかき消しました。
そういう意味で、あの一晩はある意味でヴァンサンを解放するきっかけになっていたように思います。父から解き放たれ、また自分を解き放ったヴァンサンの表情は明るく、新たな夜明けが感じられました。最悪の夜から一転、これほど爽やかなエンディングが待っているとは思っていませんでした。早朝の澄み切った空気、希望に満ちあふれた匂いのする空気をそこに感じるほどです。割れた香水の瓶を隣に置き、微笑む彼は今その足を前へ踏み出した。ぼくは、絶望の淵に射す眩しい光をそこに見たような気がしました。


追記
見れなくなってしまう前に、もう一度観ました。
いつも感じることですが、ほんとに映画は観るたびに違う見え方がしますね。違う見え方というか、以前は気に留めていなかったようなことが今度は強烈に印象に残ったりするから、面白い。何回か観てから返却するのがある意味正しいのかな。

クラブでかかってた音楽、英語が聞き取れないのでどんな歌詞なのかわかりませんでしたが、もしかしたら何か意味があったのかもと思うとちょっと悔しい……。
ヴァンサンの右手首から腕時計が消えていることがわかったときの父親の涙声がやけに意味ありげで、それが物語の最後に複雑な風味を加わえているなと思いました。20分くらいの短編だから、彼らにどんなバックグラウンドがあるのかこちらは知ることができないんだけれど、その涙声があるおかげで深みが出ているような、そんな気がしました。けっこう好きな作品でした。