ただのすず

ダゲレオタイプの女のただのすずのレビュー・感想・評価

ダゲレオタイプの女(2016年製作の映画)
4.2
死は幻。

ダゲレオタイプという撮影法。
長時間、拷問器具のようなもので人を固定して銀板に姿を焼き付ける。
魂そのものがそこに存在しているような迫力。
憑りつかれたようにその技法に拘り続けている写真家と、助手として働くことになった男と、その写真家の娘の話。

生暖かい風にゆらゆら揺れるレースのカーテン。
螺旋階段に現れる青いドレスの女。
光が点滅する地下の撮影部屋、枯れ病んだ植物温室。
物言わぬ夢遊の死者が息づいている洋館。
死と生が同じ場所に存在して、手招いてくる、勝手に開く扉に誘われる、魅力的で戻ってこれないような気持になる。

中盤、冗長と感じたんだけど、最後、愛できゅっと引き締めてくるのがたまらなく美しかった。
無垢で純粋な生命があっという間に自分の元から失われてしまったことがひどく悲しく、夢から覚めたくないのにやっぱり目を覚まして生きていくしかないのが遣り切れなく、ひたすらに切なく、涙が出た。


当時、辺鄙な映画館で幻かというくらい一瞬しか上映していなくて観に行けるわけがない…と諦めてしまったけれど、やっぱり映画館で観るべき映画だった、とっても好き、悲しい。

幻想的な音楽、グレゴワール・エッツェル。