真田ピロシキ

スイス・アーミー・マンの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

スイス・アーミー・マン(2016年製作の映画)
3.6
ハリーポッターの便利な死体。ハリーポッターは2本くらいしか見たことない。ジェットスキーになり水道になりロケットになり弓になって友達機能も搭載。お値段は何と驚きのちょうど10000円。そんなノリのバカ映画を想像していたのだけど、見てみると思っていたのと違う。まず無人島脱出が始まってすぐに終わるのが意外。分類上はサバイバル映画に当たるのだから脱出は山場に来るのだろうという予想を裏切ってくれる。

早々に陸地に辿り着いて人のいる場所を目指すのだが、ここまで随分便利機能を披露していた死体が喋りだす。変な映画だとは知っていても常識的な思考で映画を解釈しているのでこれは当然脳内妄想と思った。『キャストアウェイ』のウィルソンをハリポタ死体のメニーにやらせているのだろうと。それにしてもおかしな展開でメニーが勃起してマスターベーションの話をしてた辺りではくだらなさすぎてちょっとTwitterに目が向いてたり(笑)バスの所で意図が分かったつもりになって、これはメニーを通してハンクの内面が表現されてるのだろうと思った。そう考えて見るとこの映画はなかなかの良作じゃないかと思えてくる。

だがメニーの機能は段々自立型と言っても差し支えがない程エスカレートしていき脳内妄想説が揺らいで行く。もしかしてゾンビなのだろうかと思い始めた頃合で遂に人里に辿り着く。こっからまた急展開。やっぱりハンクは頭がおかしくなってたんだという雰囲気になり、昔バスで心惹かれてたサラを隠し撮りしてたのもあって皆がハンクを見る目がとても冷たい。でも見てるこっちとしてはメニーの行動も信じざるを得なくなってるので、ハンクに向けられる視線が不当。サイコサスペンス染みた空気が感じられてくる。そんな中で迎えるラストはファンタジー?最早映画内の何が現実で虚構なのか分からない。ジャンルも多様すぎて掴み所がない。ラストシーンでは困惑する者、笑い出す者と様々な反応を示す登場人物が描かれていたのがそっくり映画と観客を表しているように感じられた。最後のメニーの表情はパブリックイメージから離れた姿を披露して満足したダニエル・ラドクリフそのものに見える。こういう挑戦的な作品は好感が持てる。個性的であると同時にそれだけの出オチにもなってないので普通の映画に飽き飽きしてる人にオススメ。色んなジャンルをフォローしてる分、何かしらで楽しめる裾野が広いと言えるかもしれない。