こなつ

パターソンのこなつのレビュー・感想・評価

パターソン(2016年製作の映画)
4.0
ニュージャージー州パターソンに住むバスの運転手は、街の名前と同じパターソン(アダム・ドライバー)月曜日から日曜日まで変わり映えしない彼の日常が淡々と描かれている。公開時、劇場で観られなかった作品。今回配信で鑑賞。

毎朝、決まった時間に起き、妻ローラにキスをして、一人で朝食をとり出勤する。心に芽生えた詩を秘密のノートに書き留めていくパターソンだったが、何か特別な事が起こることもない。帰宅して妻と夕食を取り、愛犬マーヴィンと夜の散歩に出てバーに立ち寄り1杯だけビールを飲んで帰宅すると、またローラの隣りで眠りにつく。

彼が秘密のノートに綴っている言葉は、マッチ箱の話だったり、バスの運転席から見た景色のような小さな世界をただ文字に変えていく。

穏やかで静かな日常を描いているだけなのに、何故か心地良い。

多才な妻ローラは、カーテンに変わった模様を書いたり、洋服を作ったり、カップケーキを作ったりしながら、マイペースで楽しそうにしている。ローラを演じるゴルシフテ・ファラハンがエキゾチックな顔立ちで魅力的。気になって調べたらイランの人なんですね。ローラは、オネダリ上手で、パターソンも可愛くて仕方ない様子。そんな二人が何とも微笑ましい。

パターソンの詩に対しても、ローラは出版を薦めたりするが、パターソンはあまり気が乗らない。スマートフォンもPCも持たず、ちょっとした時間に秘密のノートに毎日詩をしたためることが彼にとって楽しみであり、日常であり、有名になりたい訳でなく、世の中そんなに簡単に上手くいくわけはないと思っている。そういうパターソンの淡々としたところが観ていてまた心地良い。

豊かな時間の流れ、平凡な日々がゆったりと過ぎていくだけ。

パターソンの生活にちょっとした事件が起き、珍しく彼は落ち込む。そんな時一人の日本人に出会い、また新たに、しかし変わり映えのしない、日常が戻ってくる。

平凡な毎日の映像。ドラマチックな事件など何も起こらない。そんな作品なのに心が和むのはなぜだろう。癒されるのはなぜだろう。優しい気持ちになれるのはなぜだろう。この作品全体に流れる温かさ、パターソンの人柄、街の美しさ、私達の平凡な日々が何と愛おしく、素敵な時間だと思わせてくれた作品だった。
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