救済P

ドラえもん のび太の太陽王伝説の救済Pのレビュー・感想・評価

3.6
ドラ映画21作目。

よく言えば王道、悪く言えば無難なストーリー。しかし、無難なストーリーだからこそ面白くするためには地力が試される。そういった意味では、本作はドラ映画21作の間に培われた映画技術が遺憾なく発揮された作品であるといえる。

『ねじ巻き都市冒険記』から続く作画はさらに洗練され美しい。1カット内での動きは大きくかつ滑らかで、構図も単調でなく考えられている。
OPには「ウィーン少年合唱団」が起用されており、主題歌もバラード調と全体的に荘厳な空気感を漂わせている。

90年~0年代ドラ映画の流儀である序盤に描かれる不穏も圧倒的に良くなった。ドラ映画といえば「不思議」に遭遇するまでの退屈な日常パートがキツイ印象だが、冒頭に、後半に立ち向かうことになる巨悪の片鱗を描くことで、序盤の退屈の末に困難に至ることが暗示され、ストレスを感じることなく前半を視聴することができる。

肝心のシナリオだが、前述したとおり王道を往く内容になっている。古代文明の時代に舞台を移し、そこで国を治めるティオ王子はのび太とそっくりの容姿だった。のび太はティオと入れ替わるが、傲慢だが力強いティオと、ひ弱だが優しいのび太はお互いに違った問題が生じ、またお互いに違った困難をものともしない。国王となったのび太はティオと違い傲慢でないので、人々から慕われる。ひ弱であるが諦めようとしないのび太の姿勢にティオは心打たれ、徐々に人を慮ることができるように変化していく。そうして国民は、のび太だけでなく、ティオすらも慕うようになる。のび太がひ弱ながらも、いやひ弱だからこそしっかりと主人公をすることができるシナリオには胸を打たれる。
絶対悪として描かれる巨悪によって今作ヒロイン「クク」が連れ去られるが、国王についていくことを決めた国民たちとともにククを奪還する。最後は別れを告げることなく、のび太たちは現代へと帰っていく。
異質な設定や展開は一つもなく、どこかでみたようなシーンが続く。しかし、ティオとのび太、2人で行ったサッカーの試合の経験が、最後巨悪との決戦で活きてきたり、優しさが産んだ力が武力に勝る王道の展開がそれをアツくさせるだけの画力とキャラクターの造形で描かれている。

巨悪の悪あがきや、繰り返される主題歌の挿入、戦友の離脱→最後に復帰の流れはやりたかっただけで蛇足感がぬぐえないが、全体的にアニメ映画に求められる要素のクオリティが高く、見れる作品。ドラ映画の地力の高さがうかがえる。
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