Inagaquilala

イエスタデイのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

イエスタデイ(2014年製作の映画)
3.8
原作小説がしっかりしているからか(残念ながら未読)、この作品は「ビートルズ」がなくても全然成立する映画なのかもしれない。たまたま時代が1967年で、バックに流れていたのがビートルズだったことくらいにしか、主人公たちの心のうちに「ビートルズ」は影を落とさない。

そもそも「サージェント・ペッパーズ」を聴いてバンドを始めようなんて人間は、よほどの音楽通だ。この映画の中でのジョン、ポール、ジョージ、リンゴの高校生にそれほどの音楽的素養はない。なにせ結成されたバンドは最後まで、完全な形で演奏することはないのだから(それもビートルズの曲ではない)。

むしろ主人公が恋をする金持ち娘のセシリアが聴いているレナード・コーエンの「スザンヌ」のほうに注目してしまった。この時代にレナード・コーエンを聴いているなんて、結構、素敵なことだ。なので、こちらのほうがこの作品では重要な意味を持っていたようにも思ったりする。

さて肝心のビートルズの曲の使い方は当たり前だと言えば当たり前で、的は外していないが、それほど効果的だとは思えなかった。唯一「レット・イット・ビー」の場面はなかなか策を凝らしていて、ベトナム戦争反対のデモとオーバーラップさせることで、このノルウェー・オスロの青春物語を世界と時代に結びつけていたように思える。

主人公がバスに乗ったセシリアを追いかけるシーンにも「レット・イット・ビー」は重なるのだが、選曲としては悪くなかったようにも思える。このバスのシーンはマイク・ニコルズの「卒業」のラストシーンを思わせた。

原題は単に「Beatles」(小説のタイトルも同じ)らしいのだが、これも邦題を「イエスタデイ」にしたため無用なミスリードを生んでいるように思う。むしろつけるなら「レット・イット・ビー(なすがままに)」だろう。

北欧から届いた、そこここにただものではない感を漂わせる、音楽映画というよりも青春物語の佳作。
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