マヒロ

リトル・マーメイドのマヒロのレビュー・感想・評価

リトル・マーメイド(2023年製作の映画)
3.5
海の王国のプリンセスのアリエル(ハリー・ベイリー)は好奇心旺盛で、父であり海の王でもあるトリトン(ハビエル・バルデム)から禁じられている海上の世界にも興味津々で度々覗きに出掛けていたが、ある日、事故により難破した船から助け出した人間の王子・エリックに一目惚れしてしまう……というお話。

『リトル・マーメイド』の実写版で、基本的な物語は大体同じ。ディズニーの実写化は出来にムラが激しく、なんだったら良くないものの方が多いという印象なんだけど、今作は割と悪くなかった。
オリジナルの欠点は、アリエルとエリックが一目惚れしたという行動原理だけで動いていて命をかけてお互いを想うという理由づけに乏しいところだと思っているんだけど、今作では地上での二人の交流に時間を割いており、心を通わせるところもハッキリ描いてくれるのが良かった。アリエルが憧れる地上も、南国の明るく雑多な雰囲気が楽しそうでアニメ版より魅力的になっている。主役に抜擢されたハリー・ベイリーも、最初の歌い出しからこりゃ選ばれるわと納得させられてしまう圧倒的な歌唱力が素晴らしかった。

逆に気になる点は、リアルにデザインされた海の生き物達で、カニのセバスチャンや海鳥のスカットルはまだ表情や挙動にアニメっぽいコミカルさを残していたが、魚のフランダーは完全にただの魚になっているので、魚類特有の虚な表情でベラベラ喋るのがかなりの違和感だった。作品のキモとも言える『アンダー・ザ・シー』のシーンも、リアルなヒトデとかがクネクネ踊ったりするシュールな見た目になってしまい、オリジナルの高揚感みたいなものが失われてしまっていたのが残念だった。セバスチャンがカニになっているのも最初は気になったが、物語上隠密行動が多いので、ロブスターのままだとデカくて目立つだろうし必要な改変だったのかなと納得は出来た。
歌唱シーンもいくつか追加されているが、アースラに騙されて声を奪われたアリエルが地上に初めて行く場面で、地上に上がって早々に心の声という形で歌が始まるのにずっこけた。別に良いっちゃ良いんだけど、声を失ったという展開なのに早々に歌を聴かせてしまうのは、ようやく声を取り戻した時のカタルシスを減らしてしまっているように思える。

やっぱりオリジナルの完成度と比べてしまうと気になるところも多いが、アニメでは描ききれなかった部分の補完もしっかりしながら、人魚と人間の恋が個人間の話だけでなく周りを巻き込んで影響を与えていくという、違うもの同士が認め合うことの大切さを訴えるというメッセージ性も込められた、なかなかの良リメイクだったと思う。

(2023.162)
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