ヤンデル

バリー・リンドンのヤンデルのレビュー・感想・評価

バリー・リンドン(1975年製作の映画)
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・キューブリックはナポレオンを主題にした映画を製作するために当時の資料集めをしていたが資金の問題で映画化がとん挫したために、代替の原作としてサッカレーの小説「The Luck of Barry Lyndon」が選ばれた。

・バリーのモデルはアンドリュー・ロビンソン・ストーニーと呼ばれる人物で詐欺的な手法で貴族にのし上がった人物とされる。

・バリーがクイン大尉とノラの間に入るシーンで、クインはリボンを投げつけるが、これはクイン大尉とノラが序盤と同じような遊びをしていたということを指している。

・バリーが参加する戦争はプロイセンとオーストリアの戦争でプロイセン側にイギリスが、オーストリアにフランスが加担したためにフランスと交戦している。

・バリーは自分がイギリス侯爵ではないと見破ったプロイセンの大尉を戦時中に助ける。これはバリーが父性を求める物語になっている。そのため、グローガン(序盤に出る決闘や軍隊で世話をしてくれるおじさん)やバリバリ伯爵との関係性が描かれる。

・「時計じかけのオレンジ」や、「A.I」でも親に捨てられる主人公を描いている。「シャイニング」でも父と息子の戦いになる点は共通している。

・バリーは同郷のバリバリ伯爵に同情し味方してしまうが、当時アイルランド人はイギリス人から差別される対象であった。そのため、身分を偽って貴族社会に入りたいという願望がテーマになっている。キューブリック自身もユダヤ人であり被差別の民族だった。「アイズ・ワイド・シャット」の原作では、オーストリアから差別を受けるユダヤ人の恐怖も描かれており、これもニューヨークの上流階級のセックス・クラブに入る願望の物語になっている。

・最後の字幕では「この物語の人々はジョージ三世の時代に戦った人たちだが、現在はみんな平等」と語られる。これはサッカレーの記述からの引用だが、現代のよな身分が無い社会では、バリーが身分を追い求めて破滅すること虚しさを語っていると思われる。

・他のキューブリック作品との共通点としては、「時計じかけのオレンジ」「フルメタル・ジャケット」のように2部構成の展開になっている点、「博士の異常な愛情」「ロリータ」のように作風がシリアスだが結果的にコメディに見える点がある。新しい世代が古い世代を乗り越えて進化する、という意味では「2001年宇宙の旅」とも共通している。

・ナポレオンも国民主体の国家を目指したものの、権力を手にすると皇帝になり、破滅していく。キューブリックがナポレオンを映画化したら同様の物語になったのではと考えられる。
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