曇天

美しい星の曇天のレビュー・感想・評価

美しい星(2017年製作の映画)
4.0
さすがの吉田監督、考えなくても観ているだけで楽しい。
原作の粗筋を見る限り、脚本にはかなりアレンジが加えてある。「地球温暖化」という現代風のトピックに見合うように、各パートでパズルのような擦り合わせが行われていた。監督はアレンジャーとなって、地球人から逸脱した登場人物の言動を使って存分に遊んで見せる。家族愛というテーマも二の次で、やりたいことのメインがアレンジの方だったんじゃないかと思うくらいの技巧派。本人とても楽しんでるように見えた。

登場人物の各人が〇星人へと覚醒し、生活に小さくない変化を与えていく。
当たらない天気予報士の父・重一郎は火星人に覚醒後、世界各地の気候変動をさも重大そうに伝えてお茶の間の危機感を煽る、ちょっと危ないエコ推進派となる。
長男・一雄はメッセンジャーのフリーター、ひょんなことから参院議員の私設秘書となり政界での水星人の暗躍を知る。
孤独な大学生の長女・暁子は路上ライブの若者に導かれて単独金沢へ赴き、金星人としてのアイデンティティを手にする。
原作では木星人だった母・伊余子だけ覚醒がない。それだけに質の悪いというか、似非科学な水の販売に手を出し意外な出世を遂げる。

現実においても見解が揺れ動き続けている地球温暖化をテーマに使ったことで議論のシーンがよりエキサイトする。エコブームが去って、地球のために議論する人がいなくなってから久しくもあり、そこへ人間すらも見下ろす位置の宇宙人目線からの地球どげんかせんといかん放談である。面白くないわけがないし、息子が入ることで世代間格差と負の遺産問題も持ち込んでる点でも興味深く聞ける。
様々な立場はあるだろうが、議論パートで一つ言えることは、現実には訳知り顔で環境問題なんぞを語ってる奴程、それは自分達の利益のための活動だからうそ寒い。見解のはっきりしない科学は疑似科学として利用されがちだし環境問題もそうだということ。ヒトは尤もらしい言説を真実と思い込みやすい生き物だということ。水販売ネタはもちろん、本作の星人の存在の曖昧さもそことリンクしてると思う。

序盤は吉田監督お得意の危ない綱渡りのオンパレードでヒヤヒヤしたが、それほどでもなくて安心。というか極力鬱展開に見せないようにチューニングされてる。よくよく考えて、宇宙人視点を捨てて皆地球人として見るとかなりどん底。それでも序盤から比べると皆毒が抜けた顔をしている。
全体で見ても、テーマ的に深く掘り下げなくとも、単に「話が合わなくて家族が宇宙人にしか見えない」ディスコミュニケーションものとして見れる。前作『紙の月』を反省してか、ラストは見切りの速さで抜群の余韻。

普段より役者が光って見えた。リリー・フランキーなんて彼のシーンで笑えない所はないというくらいの飛ばしっぷり。カットでは一瞬しかない、でも大事な元球児役という野球要素での亀梨起用。どこへ進むか危なっかしくて見ていられない中嶋朋子。宇宙人役がハマってる橋本愛に、ハマり過ぎている佐々木蔵之介。大学のチャラ男も好きだし、胡散臭い奥様方の演技には爆笑させられた。金星人の娘が憧れるバンドの曲としての挿入歌は、監督自身ファンという平沢進の「金星」。改めて読むと歌詞がちょっと合い過ぎて感動。いかにもな宇宙人的感覚の曲をただの地球人が書いていたというギャグにも笑。

やっぱりハッタリ演出が上手くて、日本人俳優を演技臭さなく動かせて、テーマ性も忘れない邦画。これを作れる監督は国宝級だわー吉田監督。ずっとついて行きます。
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