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海は燃えている イタリア最南端の小さな島のgenarowlandsのレビュー・感想・評価

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アフリカにほど近いイタリア最南端の小島ランペドゥーザ島は、世界の絶景と言われる有数なリゾート地である一方、アフリカからの難民が年に5万人船で流れ着くことでも知られている。穏やかな島民の暮らしと3日しか滞在できない難民の様子を映したドキュメンタリー。(難民問題の覚え書きとしてレビュー長文です)

監督は1年半島に住み、島民の暮らしの中に入り込み、島民がカメラを全く意識しない日常の自然な姿を映している。

島民の家族の日常に時々差し込まれる難民の映像。8:2の割合。

難民問題なのだが、何を伝えたいのかよくわからなかった。ドキュメンタリーとはいえ編集するから監督の意図はあるわけで、でもわからない。

特典映像に日本の大学での講演があり、大学生からの質問に答えていた。大学生も私と同じ疑問を感じているようだった。

監督曰く、難民の受け入れをヨーロッパが何もできないことへの怒りがまずある。しかし、悲惨なことばかり強調するよりも、難民がいても日常がふつうに営まれているようすが社会の縮図である。難民は3日しか滞在しないので深く取材していない。ナイジェリアからの難民のラップに全てが表されている。

とのことで深い取材はなかった。そのため、難民の話よりも、戦争ごっこ好きな島の少年の左目が弱り、手作りパチンコで小鳥が撃てないとか、海近くに住んでいても手漕ぎボートがうまくないとか、一般の島民はほぼこの家族しか出てこないとか、その映像ばかりでちょっと不思議だった。

海を渡り島までたどり着ける難民はナイジェリアからは3分の1。途中で亡くなってしまう。迫害された人を難民と言い、生活困窮が理由だと経済移民とされ、ヨーロッパ(と一概に言っていいのかわからないが)では難民ではなく経済移民となり受け入れ困難になる。食べるものがなく、生活出来ずナイジェリアから逃げ出した難民のラップが確かに難民の全てを語っていた。母国の政治不安、飢餓。逃げても砂漠を越えられない。たどり着いた国はムスリムの国。定員数倍の密度の牢に何年も監禁される。牢から出てヨーロッパを目指し海を渡る。食べるものも水もなく船底で餓死する。船は沈没する。船の化学燃料で全身火傷負う。今生きてここにいることに感謝している。

「数ではない」と救護医の言葉が刺さった。何千人何万人も亡くなっている。その一人一人に生きる権利がある。

島の難民関連の職員は船でやって来た人達にきっちりとした仕事をしている。非常にシステマチックだ。「仕事だから」と先の医師も語ったが、それは自分たちがしなければ誰がするのだ、という言葉に聞こえた。

監督は悲惨なことをクローズアップしないと語ったが、船から生存者、病人、衰弱した人それぞれに対応したあと、船底に残された山のような遺体が映された。亡くなった方々はこの島で手厚く葬られることだろう。

タイトルは2013年の難民船が火事になり多数の人々が亡くなったことを表している。

様々な断片が途切れ途切れに映され、監督の意図がわかりかねた。日常と切り分けられた難民問題を表したいなら、リゾート地との対比を撮るべきだと思った。あるいは関係者にもう少し深い取材をするとか。

この作品はヨーロッパ人に向けて作られたもの。リゾートを表さなくても、3日の滞在でさっさと大陸に難民を送り、難民はいなかったかのように、きれいに片付けられていくシステマチックな仕組みは、この島がリゾートアイランドであり、観光客には見えない仕組みになっているためのようだった。

よくわからなかったので共同通信の医師への取材記事を読んで、断片でしかわからなかったことがつながった。


共同通信取材記事↓
https://www.47news.jp/2699599.html

難民鎖国日本の私にはわかりにくいドキュメンタリーだった、と同時にわからなかったのはそれだけ現実と離れていることだからだ。監督の意図はそこなのだろうか。
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