めしいらず

未来よ こんにちはのめしいらずのレビュー・感想・評価

未来よ こんにちは(2016年製作の映画)
4.2
子らは自立。夫婦仲も良好。そんな哲学教師の主人公の日常に巻き起こる諸問題。認知症の母の急逝。夫の不倫と熟年離婚。出版社の契約打ち切り。そして老いと孤独のこと。彼女を悩ませるのは高邁な思想や哲学の問題なんかじゃなく、誰もが知っている人生のそればかりだ。そして教え子には「価値観を変えるほどの行動はせず、生き方を変えるほどの思想も持たない。デモや請願をすれば政治参加した気になって良心を痛めずに暮らせる」ような都合の良い人だと非難される。実際にその通りなのだ。でも、そうだからと言って悪いわけじゃない。思想や哲学などを家庭生活や実人生に持ち込めば如何にも邪魔くさい。主人公は仕事以外にそんな益体もないことで人生を難題にしたりしない。それが彼女の生きるたしなみなのだ。だから時に落ち込むことがあっても、決してそれに取り込まれたり苦悩する為の思索の迷路に入ったりせずにいられる。辛いことが続いた後には嬉しいこともある。家族の団欒を背に感じながら、寝室で初孫を抱いてあやすラストシーンの圧倒的な多幸感。人生における最も美しい場面を見るような幕切れに思わず目頭が熱くなった。
この映画は主人公イザベル・ユペールに尽きる。凄い。また劇中に流れる曲がどれもこれも実にいい。地味ながらちゃんと人生に根差したこんな映画が好き。正直期待せずに観始めたけれど思わぬ拾いものだった。ただ邦題が如何なものかとは思う。
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