一言感想……モラトリアムとスプラッターの融合。
「イットフォローズを超えた」
「完璧なラスト」
「最も美しいスプラッター」
との期待値溢れる触れ込みで話題となった(自分の中で)この映画。
まぁ世の中、皮算用ほど悲惨な結果をもたらすことはないと考えてるので、抑えめの気持ちで観に行ってきましたよ。
で、感想です。
回想シーンや時系列の前後がなくマーティの主観で話が進んでいくので、脳内保管が迫られる部分がかなりあります。
ホームビデオ感溢れる画面と子供たちの学芸会的な演技も手伝って、なかなか物語に入りづらいのですが、途中から全然気にならなくなりましたね!
映画はマーティのモノローグを挟みつつ、彼の鬱屈とした日常を流していくのですが、このどうしようもない感じがたまらなく好きでしたね。
常日頃同級生にはからかわれるし、友達は1人しかいない。っていうかその1人も友達と言えるかどうかも分からない微妙な関係。
集まってやることと言えばアメコミ同人誌作成とB級スプラッター映画観賞だが、それが楽しくてたまらないという訳でなく、なんとなく日常からの逃避としてそうしているだけに思えます。
ここじゃないどこかへ行きたいし、こんな自分を変えたい。
でもどうしたらいいか分からない。
両親は「いい子になれ」と気持ちを押し付けるだけで、何も教えてくれない。
兄貴に至っては何を考えてるのかよく分からない。
思い出すだけで厭世観高まりますね!!
話はマーティに生首の件が知られていると、スティーブが気付いてから大きく変わっていきます。
当然ながらマーティはこれ以上ないぐらいビビりまくるんですが、最終的にはスティーブに「いじめっ子を殺してくれてありがとう」と感謝するんですね。
スティーブの殺人動機は明らかに間違ったものですが、マーティにとっては恐れ以上に自分の世界を変えてくれる神のごとき行為なんですね。
その行為に感化されたマーティが、いじめっ子に反撃し、それを咎める大人たちに「俺は悪くない!」と頑なに反抗するシーンは思わず興奮しました。
それまでの鬱屈したシーンを吹き飛ばす痛快な箇所です。
いじめっ子から謝罪(イヤイヤながら)された時に「次やったらまた殴るぞ」「地獄に落ちろ」というシーンは頑固すぎて笑っちゃいましたけど!!
その後両親にマーティの反撃の件がバレてしまうんですが、マーティが一方的に悪者扱いされてしまうのがなんとも悲しい。
「暴力はダメだ」と説いてる母が「母親失格だ」と言われて思わず平手をマーティに食らわすシーンは皮肉たっぷりとこの家族のコミュケーション不足を描いていて、大変に居心地が悪いです。
その直後のマーティの「こいつはダメだ。話して通じない」みたいな表情も物悲しいですね。マーティ……。
で、親父はさらにまずい対応で、マーティを殴りつけて「痛いだろう!暴力で返すのはよくないことなんだ」となじる訳です。すごい矛盾です。
マーティは「痛くない」と全く譲らない!
ここでスティーブが登場し、親父を制止するんですが、反撃する形で親父を殴ってしまうんですね。
勘当を言い渡されてスティーブがガレージから出ていきマーティも後を追おうとするんですが、直前で母によってシャッターを閉められてしまいます。
この時に、スティーブは更に一線を越えることになってしまったんでしょう。
その夜にスティーブはマーティを呼び出し、両親の殺害を仄めかします。
その時のセリフがまた怖い。
「朝がくれば全て終わる。俺たちは助かるんだ」
自分が絶対に正しいと盲信している感じです。瞳孔カッ開いてマーティを説得する姿はかなりゾッとしました。
さすがのマーティもそれだけはやめてくれと涙ながらに告げるのですが、スティーブの覚悟は固くむしろ「何故分かってくれないんだ」みたいなことを言います。
で、意識を失ったマーティが目を覚ますと、ベッドに縛られていて、両親の絶叫だけが聞こえてきます。
そこに登場するガスマスク姿の血濡れのスティーブ。
容赦なく両親が痛めつけられたうえで殺されるんですが、劇中のB級映画のシーンと打って変わって殺害シーンを全く見せないというのがまたイヤな感じです。
そして最期までマーティとスティーブは分かり合うことが出来ず、ラストシーンに繋がります。
時間にして10秒もないシーンなんですが、この世の悪夢みたいな光景で同時に幻想的でもあって、思わず息を飲みましたね。
このシーンのためにこの映画があったような気すらします。
ラストシーンはマーティが生首に魅了された代償のように感じます。
生首から死という絶対的な力に触れ、ある種の全能感に基づいて行動したが故のしっぺ返しが、この映画の結末なのでしょう。
寓話的な映画でした。
是非色んな方に観て、ラストの意味を考えて欲しいですね。
「こんな体験は 心を歪ませる」