真田ピロシキ

透明人間の真田ピロシキのレビュー・感想・評価

透明人間(2019年製作の映画)
4.0
頓挫したダーク・ユニバースであるが古典ホラー映画を現代風にリメイクする試みは今作で成功したように思う。透明人間と言うと体自体が見えなくなるのがセオリーであったが、2020年にやるに当たって用いられた手法は光学迷彩。そう、攻殻機動隊とかのアレです。いつ頃からこの方向性で透明人間を撮る事を考えてたのかは知らないが、これが非常に戦わせるのに都合がいい事を踏まえるとダーク・ユニバースの時点でもうこれだったんじゃないかなと思う。病院で警備員を相手に無双するのはその名残に見える。生身型透明人間だと本人の肉体以上には強くなれないが、スーツならアップグレードで機能追加したりして強くできる訳ですし。アイアンマンみたいな位置付けだね。ペンキをぶち撒けたり雨の中を歩かせるような透明人間のお約束はあって、倒す時には消火器を活用されててその辺はオーソドックス。消火器は伏線を張られていたけれど、透明人間の見える化がワンパターンなのはやや残念で、そこは光学迷彩なんて新しい技を見せてくれたのだから解法も今までにないものが見たかった。しかし本作は見える時のCGよりも見えていない時のそこにいるかもしれない空気が優れていて、これがあるためにサスペンス・スリラー映画としての格が高い。わざとらしい出血もなくて「こういう映画ならこれで良いだろ」みたいな妥協を感じさせない所に好感が持てる。

物語も良く出来ていて透明人間が様々な事を比喩している。例えばDVから逃れたばかりの主人公のセシリアがPCのカメラを覆うシーンがあるのだけれど、これはPCやスマホなどいつどこで知らない誰かから見られているかもしれない現代人の不快感が表れているのだと思われる。監視カメラのカットが多いのもそれ。またDV男のエイドリアンは直接的な暴力はあまり行わないタイプのようで、周囲から孤立させたり意見を封じたり見えない暴力を振るう。こうしたハラスメントは何もDVに限った事ではなく、社会の色々な所でとりわけ女性が受けている見えない暴力が姿を形取ったものじゃないだろうか。被害を信じてもらえないのもなかったことにされがちな性加害のメタファーとして透明人間がいると書かれているのを前に読んだ事があってなるほどと思う。セシリアは情緒不安定な感じなのでもっと彼女の妄想かもというサスペンスにも出来たと思うが、そうしなかったのは被害を訴える女性をエンタメにはしない意思表示なのかもしれない。なかなか強いフェミニズム映画だ。

結末はちょっと意外。そういう事が出来そうには見えなかったのだがアレを倒した、もっと言えば病院を脱出した時点で他人からの支配を脱却して自立したという事なのだろうか。スーツを破棄する描写がなかったので、もしかしたら続編の構想もあるのかもしれない。しかしあのスーツでやる事って言ったら仕置人的なものしか思い浮かばないのでそういうのだったら嫌だなあ。