note

皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

3.6

このレビューはネタバレを含みます

ふとしたきっかけで超人的なパワーを身につけたチンピラのエンツォは、世話になっていたオヤジが殺され、その娘でアニメ「鋼鉄ジーグ」のマニア、アレッシアの面倒を見る羽目になる。超人的な能力を持つエンツォをアニメの主人公と同一視して慕うアレッシア。その2人の前に、ギャングのリーダー、ジンガロが現れる…。

最下層に暮らすダメ男の純情と奮起が不思議と美しく見えてくる作品。
邦題がカッコいいのだが、正直、「鋼鉄ジーグ」は知らなくても良いし、他のモノでも構わない(笑)。

物語は、中年のコソ泥がひょんなことから超人的パワーを手にし、その力の正しい使い道に気づくまでのヒーローの誕生譚。
パワーを私利私欲のために使っていたエンツォだったが、「女性を守るために正義に目覚める」その古風な展開が良い。

登場人物が皆痛々しいのが、本作の大きな特徴。
主人公のエンツォは40過ぎの中年で無職。
コソ泥で日銭を稼ぐ孤独で怠惰なダメ人間だ。
自宅にあるのは大量のヨーグルトとエロDVDのみ。到底、真人間ではない。

孤独に生きてきたエンツォの世界に乱入してきたのが、幼い頃の虐待で精神を病み、空想世界に生きる女性アレッシア。
エンツォのことをアニメ「鋼鉄ジーグ」の主役ヒロシと呼び、そのパワーで邪悪な者から世界を救えと執拗に訴える。

彼女の壊れた心の思い込みが、底辺の生活で死んでいた彼の心を揺さぶるのだ。
アレッシアとの出会いによって、徐々に自分のなかに人間性を取り戻すエンツォ。
心の壊れた女と、心の死んだ男。
2人のラブシーンは愛ではなく、心の傷の舐め合いに見えるのが哀しい。

エンツォのパワーに目をつけ、それを手に入れようとする悪役のジンガロもエンツォ以上のダメ人間。
ギャングのボスだが、行動の原動力は単に目立ちたいという自己愛と破壊欲求。
将来の夢は人気YouTuberというのが今風で笑える。
ジンガロの策略で、彼女を失うエンツォ。愛した女の意思を継いでヒーローとして生きることを選択するのがいじらしい。

クライマックスは愛を踏み躙られたエンツォの復讐であり、ジンガロのサッカースタジアム爆破テロ計画を阻止するヒーローとしての活躍。
ジンガロもエンツォと同じ能力を手に入れ、能力者同士の対決となるが、ハリウッド製ヒーロー映画のような派手さはない。

ともに有する能力は頑丈な肉体と人並み外れたパワーだけという、なんとも泥臭い戦い。
そこに愛する女を奪われたダメ男の純情が見え隠れして応援したくなるのだ。

放射性廃棄物で超人的パワーを手に入れる科学的根拠の無さと、あまりにイタい人間描写に賛否が分かれるだろう。
しかし、底辺の貧乏人に生まれる純愛と、ヒーローとして生きようとする高潔な魂を得るところに、庶民としては非常に共感してしまうのである。
note

note