Inagaquilala

オクジャ okjaのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

オクジャ okja(2017年製作の映画)
4.1
ポン・ジュノ監督、また、やってくれた。前作「スノーピアサー」(2013年)以来の新作は、Netflixでの配信。もちろん月決めで視聴料は払っているのだが、感覚としてはポン・ジュノの最新作が、「タダ」で観られる気分だ。しかも、製作は今年度のアカデミー賞作品賞に輝いた「ムーンライト」を送り出したプランBエンターテインメント。「プランB」はブラッド・ピットの会社として、過去に「ツリー・オブ・ライフ」(2011年)や「それでも夜は明ける」(2013年)など通好みの作品も製作しており、配信前からいやがうえにも期待値は高まっていた。

「スノーピアサー」の設定にも驚かされたが(近未来の氷河期に入り凍りついた地球で、人類は永久機関で走る列車のなかで暮らしている)、今回の作品も冒頭からその壮大な世界観に引きつけられる。さすが、ポン・ジュノ。世界の食糧危機を救うためにと多国籍企業であるミランド社が「スーパーピッグ計画」を発表する。それはチリの農場で奇跡的に見つかったスーパー子豚を、26の世界中の農家に託し、10年間でいかに立派に育てられるかを競うコンペティションを行うというものだった。これが冒頭のタイトルバックにオーバーラップしながら、小気味よく軽快に語られる。

一転、韓国の山の中で巨大な動物と戯れる少女ミジャ(アン・ソヒョン)のシーンに。巨大な動物は、スーパー子豚の10年後の姿。体長も10メートル近くはありそうで、それは豚というより、巨大なカバに近いかもしれない。少女ミジャとオクジャと呼ばれる動物は、緑に包まれた自然の中を駆け回り、意志の疎通もあるようだ。少女の危機に際しては、身を挺して、知恵も働かせ、少女を救けるオクジャ。宮崎アニメにも登場するような牧歌的世界が広がる。

10年が経って、自然の中で自由に育ったオクジャがコンペティションの第1位に輝き、ニューヨークへ連れ戻されることになるところから、物語は動き出す。オクジャをミランド社に渡したくないミジャは、動物保護団体の人間たちとともに、奪還作戦を敢行するのだった。ここに至って、牧歌的世界から、作品はにわかに転調を遂げる。オクジャが街へ飛び出すとそれは怪獣映画でもあり、オクジャをめぐって繰り広げられるカーチェイスのシーンなどは見応えあるアクションムービーでもある。

ポン・ジュノの名声が高いのか、はたまた「プランB」の威光なのか、出演者にもハリウッドの有名どころが顔を揃えている。とくにオクジャの生みの親であるジョニー・ウィルコックス博士を演じるジェイク・ギレンホールの狂気を漂わす怪演は、ポン・ジュノ作品の新たな顔になりそうだ。また、ミランド社の社長役のティルダ・スウィントンもエキセントリックな役どころを見事に演じている。そして、なにより少女ミジャ役のアン・ソヒョンの目力は、作品を観終わった後でも強く印象に残る。

牧歌的世界と企業利益の対立、食料危機救済の美名の下で進行する黒い陰謀、文明や社会に対する視線は、ポン・ジュノ監督らしく、辛辣で刺激的で、かなり衝撃的な映像も飛び出す。とにかくいろいろな要素が詰め込まれた作品でなのだが、基本的には、ポン・ジュノ作品の特徴として徹底的に楽しめるものにもなっている。最後に忠告として、舞台がアメリカに移ってからのミランド社の工場のシーンは、食事の前に観る映画としては、あまりふさわしくないということは申し述べておこう。
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