せんきち

ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツのせんきちのレビュー・感想・評価

3.8


面白い。現マクドナルド・コーポレーションの創業者レイ・クロックの物語。


1度に5本のシェーキを作れるマルチシェーキマシンの営業レイ・クロック(マイケル・キートン)。お決まりのセールストークも空振りの連発。そんな中、秘書からシェーキマシン6台の発注があると電話が。発注ミスと思い、発注先に確認するレイ。「ああ、すまん。6台の発注はミスだ。8台にしてくれ」と発注者マクドナルド兄弟は答えたのだった。どんな店舗なんだ!疑問に思ったレイはマクドナルド店に向かった。


そう、ここで分かる通りマクドナルドの基本メニュー、調理システム、店舗の基礎を作ったのはマクドナルド兄弟なのだ。では何故レイが創業者になってるのか。答えは明快、レイがマクドナルド兄弟からマクドナルドを奪ったからだ。


マクドナルドのシステムに惚れ込んだレイはマクドナルド兄弟にフランチャイズ化を強力に勧める。品質が維持できないから今のままでいいとこだわる兄弟を説き伏せ、強引にフランチャイズ化するレイ。しかし、フランチャイズ化しても思ったほどの利益が上がらない。レイの右腕の財務担当ハリーは言う。「このビジネスを飲食店と思ってないか?違う、これは不動産ビジネスなんだ」

それはマクドナルド本社が出店場所を選定し土地所有者を契約し店舗を建築した上で加盟者に売上に応じた賃料で貸し付けるビジネスモデル。これがバカ当たりし巨万の富を得るレイ。そして、邪魔者であるマクドナルド兄弟の追い出しにかかるのであった。


多分、一般的な基準でいうとレイは悪役だ。この物語は悪役が完全勝利して断罪もされず終わる。レイは巨万の富と名声と栄光を得て寿命を全うするし、追い出されたマクドナルド兄弟はレイとの約束も反故され唯一残された本店も失ってしまう。


善が負けて悪が勝ち、マクドナルドで食べることが何となく嫌になる話かと言うと全然違う。確かにレイは残酷だし、他人の気持ちを全く尊重しない。サイコパスに近い※。しかし、ビジネスに対して誰よりも誠実だ。レイでなければマクドナルドは巨大チェーンになってない。この映画を観れば、私達の知ってるマクドナルドはマクドナルド兄弟の作ったものではなくレイの作ったものと理解できる。

※「ライバルが溺れていたら、ホースを喉に突っ込んでやる」という台詞がある。実際にレイが言ったそうな!


全てを失ったマクドナルドの前でレイのが語るマクドナルドの魅力。それはマクドナルド兄弟が想像もしなかったマクドナルドが体現するアメリカン・ドリームだった。マクドナルドの真の価値に気づいていたのはレイだったのだ。


レイは再三語る。「”才能”があっても人生の勝利者にはなれない。”根気”だ。”根気”があれば打ち勝てる。”信念”もあれば無敵だ」

そう、大事なのは”根気”と”信念”であって倫理とか正しさではない。非常に正直な男だ。全く好きになれないが。

製作者はレイ・クロックを肯定的にみてる訳ではない。ラストを観れば「確かにマクドナルドを創業したのはお前だけど、お前がやった事が書き換わる訳じゃねえからな」という静かな怒りを感じる。

こういう良いんだか悪いんだかよう分からん人物が出て来る映画は好きだ。実際の人物もよう分からないからだ。この映画はその辺を上手くやってる。
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