逃げるし恥だし役立たず

悪名一番の逃げるし恥だし役立たずのレビュー・感想・評価

悪名一番(1963年製作の映画)
3.5
人々の零細な資金を集めた預金を持ち逃げした大黒金融の一社員を朝吉(勝新太郎)と清次(田宮二郎)が追わんと一路東京へ、しかし事件の黒幕が社長の郡(安部徹)と関東の顔役・工藤(名和宏)と知り、二人は得意の殴り込みをかける。勝新太郎&田宮二郎扮する御馴染みの任侠コンビが、今回は大阪から東京へと出向いて、悪徳金融会社の社長らを痛快に退治するアクション・ドラマ。大映の人気ヒット作『悪名』シリーズの第八作。
年の瀬、お照(藤原礼子)の家に未だ居候の朝吉(勝新太郎)と清次(田宮二郎)は漫然と花札遊び。其んな中にお照の店の朋輩に大黒金融で預金が持ち逃げされ、支払不能に陥ったとのトラブルが起こる。大阪支社で気の毒な預金者の依頼を引受け、行方を晦ました持逃げ犯人の大野平助(矢島陽太郎)を追って東京本社に善後策を掛合いに行くが軽くあしらわれる。其の後、些細な事による喧嘩別れから朝吉は台場組、清次は工藤組と敵対する組織に身を置くが、事件の黒幕が社長の郡(安部徹)と関東の顔役・工藤(名和宏)と知ると、平助(矢島陽太郎)と圭子(江波杏子)を救うべく一郎(芦屋雁之助)と二郎(芦屋小雁)を伴って朝吉と清次が殴り込みをかける。
満州事変の時代が設定の第一作から始まった本シリーズも戦後の闇市の混乱を経て、復興を象徴する東京オリンピック目前に沸く首都東京が舞台となり、昭和の世俗を描いてきたシリーズと捉えて鑑賞すると非常に感慨深い。ガキ大将が其の儘大人になった勝新太郎や青春真っ盛りの無理くりヤンキーな田宮二郎と云うキャラが適合した役者の魅力のみが構成要因であり、今更ストーリー云々の醍醐味は存在しないのだが、勝新太郎扮する八尾の朝吉親分が大都会東京に立つ本作に限っては、いつもとは趣を変えたシチュエーションによりマンネリ化したシリーズに於いて新機軸を観せてくれる。此れ迄の関西の闇市の混沌や瀬戸内の小島などの舞台設定に対して東京のビルの群れの中で、靖国神社を通した勝新太郎(朝吉)と田宮二郎(清次)との新旧世代の価値観、雪代敬子(妙子)と江波杏子(圭子)との新旧ヒロイン像、更には安部徹(郡)・名和宏(工藤) の新興ヤクザと台場組の伊井友三郎(川田玄次郎)の侠客ヤクザとの新旧組織など各々のギャップの狭間で、着流し姿の勝新太郎が活躍するストーリー構成は正に脚本の妙である。時代に流されない力強さと不器用な性格の可愛らしさを演じ分ける勝新太郎、格好良さと剽軽さを同時に発する田宮二郎、スタアの魅力で映画が成り立っていた時代、正に其れに値するだけの本物のスタアが存在した証であろう。
義理人情に厚く圧倒的な男気と哀愁漂う二重アゴの勝新太郎、クールな魅力を発揮する江波杏子、シリーズ一番の活躍を観せる田宮二郎、個人的には本作が文句無しにシリーズ最高傑作である。