ガイランゲル村でフィヨルドの研究をする地質学者が石油会社に引き抜かれて引越しに向かった日、フィヨルド崩落事故が起きて大パニック、となる地味ながら特徴的なノルウェー御当地災害映画。
★ヒューマントラストシネマ渋谷にて上映。ドバシャーン、ドッカンドッカーン、ってなるディザスター映画なら、大手シネコンの大スクリーンと音響で見せて欲しいよね。しかし、さすがにその手のヤツは世界中どこ行ってもハリウッドに見劣るのが正直。本作は、その代わりに災害の予兆を捉えるまで、捉えてからの研究者同士、家族のドラマや、ノルウェーの景勝地をマッタリ愛でる、そして災害後の現場の破滅的でありながらも神秘的な恐ろしい光景の描写に重点が置かれた。CGIによる大津波は大体暗い中だったので上手く誤魔化せていると思った。暗く狭い場面が続き、圧迫感、閉塞感の漂う画面は、災害現場ならでは(観てる方は眠くなるのは否めないが)。
★フィヨルドって、氷河に削られてギザギザになった北欧特有の地形なんだけど、複雑に入り組んだ湾、入り江の構造と、脆い地層から、岩山崩落が起きやすくて、それが原因で津波になるんだって。しかも地震による津波と違い、上から山がズルッと落ちてドボーンと波が広がるのでタイムラグがないヤツなのだ。崩落を予知しても10分で80メートル級の波が来るとか言われ、絶望感がある。そこから逃れる人たちのてんやわんやは割とリアルだし、主人公一家の家族ドラマの光景に上手く絡まってくるのが良い。
★家族ドラマの軸は『カリフォルニア・ダウン』に似ている。ただ、あちらは「冴えない肉体労働者のパパが災害時に崩壊しつつあった家族を守ってヒーローとなる」という単純明快な流れだが、本作主人公はインテリだし、不満を抱えていても家庭崩壊とまでは行ってないからオヤジ復権、家族再生劇としては弱い。しかし、本作の彼らはドウェイン・ジョンソン率いるスーパーファミリーじゃないので自分たち以外守る余裕がなく、パパはともかく、ママは家族のため息子の目の前で他人に対し非情な行為に至る場面がある。非常時の緊急避難で、やむを得ない状況とは言え、天災の前に無力な人間が生き残る精一杯の努力としてそういう部分を前に出すのは象徴的だと思う。また、反抗期の息子とまだ可愛い盛りの娘という主人公の二人の子供が、オヤジをオヤジとして再生させるためのストーリーに良い花を添えてくれる。小粒だがローカルな味のある(?)ディザスター映画。