このレビューはネタバレを含みます
【Cowboy】
社会派ドラマと言うのだろう。ずっしり重厚な作品でした。鑑賞前のイメージとして”銀世界の『スリー・ビルボード』”?と思っていたけど、比較的いい線いった予想だったかも(笑)
ワイオミングという「カウボーイ州 (Cowboy State)」と愛称される州の立ち位置も良く分かった。日本の地方都市の過疎化なんてかわいいものと思えるほど殺伐とした現状、先住民への差別も根深い。銃の保有の是非も考えさせられるし、あの国の表に出にくい、巧みに隠蔽されがちな暗部をひとつの作品に昇華させ魅せる、骨太良作。
「スリービル・ボード」より、よほどエンターテイメントしてたし、社会性もあると感じたけど、賞レースでは評価低いのが不思議。製作総指揮の某氏の存在なんて記事もチラと見えたが、だとしたらもったいない。あまりにも救われない点、底の見えない問題の深さに暗澹たる気持ちに快哉は叫べないからだろうか。それも含め、味わいある佳作だ。
下高井戸で落穂拾い。観ておいてよかった。
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(ネタバレ、含む)
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なにより大きな収穫は、ジェレミーの定義(?)が自分の中で変ったことかな(笑) ジェレミーといえばアイアンズだったけど、この作品でジェレミーといえばレナーになったかも。J・レナー、初めて観たのは『M:I4』でのこと。その後、ボーンだったりアベンジャーズなのは横目で見つつ、『メッセンジャー』でも主役級ではあったけど、どこか控えめで押し出しが弱く目立たないイメージで、記憶への定着の薄い役者だった。 けど、本作は、そんな寡黙で出しゃばらない性格が実に役柄にマッチしていて、こういうのはハマリ役って言うのだろうなと観ていて思ったもの。 孤高のハンター、深い悲しみを宿した男を言葉少なく、表情と行動で演じていて見事だった。主役に惚れると立居振舞を真似てみたくなるもの。カウボーイハット、欲しいなぁ(笑)
”蹴る鳥”グラハム・グリーンの演技も久しぶり。もうすっかりお歳を召されたが、アメリカ先住民関連の物語では外せないキャラだね。地元の部族警察のトップの役。
ヒロインのエリザベス・オルセンは今回初見だったけど、新米FBI捜査官としての初々しい演技は良かった。 ”居留地(Indian reservation)”という馴染のない環境に放り込まれた立場が、我々観る側の視点となっていた。この先もお目にかかることがあるかな・・・。
”事実に基づく物語”。近年目にすることが多い惹句のひとつ。本作も、冒頭、字幕で表示されるが、”基づく”の部分が他で見るような”Based on…”ではなく、”Inspired by”だった。これは映画の最後のテロップ「失踪者の統計にネイティブ・アメリカンの女性のデータは存在しない。」「実際の失踪者の人数は不明である」からも判る。 なんとも不気味な文章だけど、真相が解明していない”事実”を元に、その背景にはこんな闇があるのだぞと見せた実にイミシンなクライム・サスペンス。
そんな結構やっかいな社会問題を掲げながら、娯楽作品としても成り立っているのは、ひとえにJ・レナー演じる孤高のハンター(職業としては「合衆国魚類野生生物局」の職員。国家公務員???)のキャラが際立っていて、ブレなかったから。事件の真相究明も、解決も、ハンターとしての知見、流儀を貫き、男気を遺憾なく発揮している。とにかく、カッコイイ。
過酷な自然、居留地という極限の地に「運」などは存在せず、生き抜くには、強さが必要と訴えるJ・レナー。捕食される側が生き残るのも「運」の良し悪しではないと切々と語るシーンが印象的だ。都会暮しでの交通事故や、犯罪に巻き込まれるのを「運」だと言ってのけるのは、成熟した社会では一様の「平等」は保たれ、身の安全が保障されているからだろうか。その上で降ってかかる不幸は「運」と言っていいが、その土地、”ウィンドリバー”は、それ以前の状態だと言っているのだろう。故に、強き者しか生き残れないとハンターは言う。
そんな思いを込めて、被害者だった少女(娘の親友だった)を、「彼女は強い女性だった」と涙目で訴える姿は印象的だ。強いのに、それでも・・・と、レナーの無念が胸に迫る。
セクハラ・パワハラやらで、かの国のみならず世はマイノリティブーム。そんな中で、女性や黒人でもなく、ましてやLGBTでもなく、アメリカ先住民という実にマイナーな(と言っていいと思う)対象にターゲットを絞ったところがスゴイね。
テイラー・シェリダン監督は、本作を含むフロンティア三部作とやらで、アメリカの闇を描いている人らしいので、機会があれば過去の2作品(『ボーダーライン』『最後の追跡』)も観てみることにしよう。