ガンビー教授

ウインド・リバーのガンビー教授のレビュー・感想・評価

ウインド・リバー(2017年製作の映画)
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これまでも脚本で様々な映画に関わってきたテイラーシェリダンだが、これが満を持して純度100%のテイラーシェリダン作品と言って差し支えないと思う。結論から言うとめちゃくちゃ良かった。改めてテイラーシェリダンという作家に目が開かされたし、この天才がドゥニ・ヴィルヌーヴという天才とタッグを組むと『ボーダーライン』のような傑作が生まれるのか、と遡って腑に落ちるようなところがあった。

冒頭、ワインスタインカンパニーの文字がスクリーンに大きく映る。もはや過去作のリバイバル上映でもない限り2度と映画館でお目に掛かることはないであろう名前なんだけど、少なくとも僕にとってその名前を見る最後の作品がよりによって『ウインド・リバー』である、というところに苦々しいアイロニーを感じずにいられない。

テイラーシェリダンという人は常に土地にまつわる映画を撮っている。そのカメラに捉えてみせる土地と作品が絶対に切り離せないという確信を抱かせるような映画を作り続けている、と言ってもいい。また、この人の映画は常に現代の西部劇であるというのもよく指摘されることで、西部劇というのはつまり開拓途中の土地(もっと言えば、簒奪の土地)にまつわる物語であることを考えると、さもありなんという印象がある。テイラーシェリダンは俳優として出演しただけ、という関わりしか持たない『ホース・ソルジャー』でさえこの人のフィルモグラフィの中では意味を持って見えてくるほど。

ところで現代のアメリカには未開拓の土地などというものがあるのだろうか、という話になるが、その疑問に対する苦々しくも痛々しい回答がこの映画ということになる。見ているだけで凍えるような白い地獄は西部劇と聞いて私達が思い描くからりと乾いた気候と対照を成す。
この辺境の地で誰が誰から何を簒奪されたのか、という関係性は複雑に入り組んでいて見極めづらい。

胸がすくような結末に至らないことは明らかだが、過酷で熾烈な土地の風景はあくまで美しい。画面が捉える風景というものにここまで真摯な作品は久しぶりだな、とも思う。

ちなみにこの映画を見たのは夏だったんだけど、夏のさなかに凍えるような画面を見つめる、という鑑賞体験もこれはこれで味わい深かった。
ガンビー教授

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