emily

あるふたりの情事、28の部屋のemilyのレビュー・感想・評価

3.8
ふたりは出会い一夜限りの関係のつもりが、ずるずると関係が続いていく。女は結婚していて、男には恋人がいる。さまざまな土地の28の部屋で情事を重ね、やがて妊娠が発覚する。

ふたりの生活背景は全く映らない。ここにあるのはホテルの閉鎖空間の中で繰り広げられる男と女の普遍的な愛の物語である。一瞬の時間を一緒に過ごし生活に戻っていく。幻想的な夜の街のネオンがガラスに重なり、部屋ごとに光りと影を操り、狭い空間を深く非現実的に見せる。時には衝突しても元に戻り、同じ場所から一歩も動けていないふたりの愛のあがきをみる。

屋上の花火や、夜のネオンをバックに裸で抱き合ったり、白いシーツを使ったハイトーンの色彩の演出家だったり、淡々とした描写の中に、現実感のない夢物語として描き、いつか終わりが来るとこが分かってるからこそ、燃え上がる切っても切れない愛の刹那を28の部屋で描く。

この恋を続けるためには核心に迫ってはいけない。愛の言葉を深く追求してはいけない。ただこの時間を楽しむ、ただ会えた喜びを噛みしめる。しかし時の流れとともに欲望が増し、追求すればするほど、見えるのはこの恋の終わりなのだ。終わりが来るのは分かってる。

ただ今日ではない。結ばれたい。しかし離婚できない。その理由は明かされないが、自分の思いだけで離婚は成立しない。一夜で終わればよかった。いっしょにいれば幸せだか、別れのたびにその何倍も苦しいのだ。堂々巡りで、いつかくるその別れをただ先延ばしにしている。幻想を描きいつか結ばれると話しながら、その日がこないことも分かってる。

人は掴めそうなとこにある幸せを掴んでしまう。簡単に手に入る幸せなんてこの世に何一つないのに。何の解決も見出だせない。しかしそのどうしようもなさは当の本人のしかわからないのだ。いつか気付いた時すべてを失うことになったとしても、その思いはとめられない。
emily

emily