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最後の追跡のfujisanのレビュー・感想・評価

最後の追跡(2016年製作の映画)
3.9
アメリカの今を知ることができるネオ・ウエスタンの良作でした。

先日聴いていたラジオで映画評論家の町山智浩さんがこんなやり取りをしていました。
「町山さんってアメリカにお住まいなんですよね」
「そうですね、アメリカのカリフォルニアです。アメリカってどこに住むかによって国が違うぐらい違うんで!」

ということで「最後の追跡」です。


「ボーダーライン」の脚本を書き、「ウインド・リバー」では監督も担当したテイラー・シェリダンが今作の脚本を担当。ちなみに、「最後の追跡」をあわせて、フロンティア三部作と言われているそうです。

これらに共通するのが、
・過去を引きずる寡黙な主人公が
・辺境の地で
・善悪入り乱れた世界を自分の力で切り開いていく
というもの。

これらは西部劇の世界とも一致しており「ネオ・ウエスタン」と呼ばれているそうです。

ウィキペディア:”ネオウェスタンは、現代のアメリカを舞台に従来の西部劇の要素・価値観(秩序に反抗するアンチヒーロー、砂漠を舞台に設定、銃撃戦)を反映した作品を指す”




「最後の追跡」の舞台は、過疎化が進むテキサス西部の田舎町。見渡す限りの荒野と町に一軒しかないダイナー、馬を乗りこなすカウボーイハットの男たち、ってことで、車が走ってなければ、これって現代劇ですか?っていう世界です。

映画で世界を知ることが出来るという観点では、この風景だけでも見る価値はあると思いました。まさに町山さんが言う「アメリカは住む場所によって国レベルで違う」世界でした。


ストーリーは、銀行に差し押さえられた牧場を取り返すために銀行強盗を行う兄弟と、それを追うテキサスレンジャーの二人組の追跡劇。

兄弟の弟 主人公のトビーを演じるのが、現在公開中の「ダンジョンズ&ドラゴンズ」でも主人公を演じているクリス・パイン。テキサスレンジャーの責任者で定年間近の白人レンジャー、マーカスを演じるジェフ・ブリッジスとともに、人間臭さのある素晴らしい演技でした。


この作品でテイラー・シェリダンは、現代アメリカが抱える様々な問題(白人貧困層、虐げられる先住民、家族の崩壊、銃社会など)を浮き彫りにしてます。

<白人貧困層>
物語の舞台であるテキサス州西部では石油が採れるため、牧場よりも石油を採掘したほうが儲かります。そのため、銀行は違法に近い不利な条件でローンを組ませ、土地を手放させる行為が横行。それにより、白人の貧困層が広がっています。

劇中、マーカスの部下で先住民にルーツを持つアルベルトが言う言葉。

「我々先住民は白人に追いやられた。しかし今や、白人は銀行によって追いやられている」

そして、町の建物の壁には”3回イラクに行ったのに支援はない” の落書きが。

そう。ここでは、トランプ前大統領を熱狂的に支持した白人貧困層の問題が浮き彫りになっていたのでした。


<銃社会>
兄弟はその後、より多くのお金を得るために大きい支店を襲撃。そのせいで反撃を受けます。逃げる兄弟を追うのはなんと、警官ではなく土地の民兵たち。

逃げるのも市民。銃を持って追うのも市民という、これもまた特殊なアメリカ銃社会の縮図がありました。




銀行強盗と警察の構図でありながら善と悪はあいまい。血なまぐさい暴力の世界でありながら、テキサスに広がる広漠とした美しい風景。

「ボーダーライン」や「ウインド・リバー」に通じる余韻を残す終わり方が、まさにリアルです。

また、原題の「HELL OR HIGH WATER」は、「どんなに困難な状況に陥ろうとも、必ずや達成する」という意味だそうです。

必ず牧場を取り返す、必ず犯人を捕まえる、必ず以前の生活を取り戻す、など、映画で表現されていた様々な意味が含まれる良い原題だな、と思いました。


今作は残念ながらネットフリックスでしか観ることができないようですが、熱い人間ドラマと知らない世界を知ることができる、とても素晴らしい作品でした。




2023年 Mark!した映画:116本

4以上を付けたのは15本

4.2 スリー・ビルボード
4.2 インビジブル・ゲスト
4.1 エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス
4.1 ブレードランナー 2049
4.1 NOPE/ノープ
4.1 ベイビーわるきゅーれ(邦画)
4.0 ザ・コンサルタント
4.0 サイド・エフェクト
4.0 ヘルドッグス(邦画)
4.0 ブラッド・ダイヤモンド
4.0 灼熱の魂
4.0 ANNA/アナ
4.0 ある男(邦画)
4.0 ニューオーダー
4.0 ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー(邦画)
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