YAJ

ブレードランナー 2049のYAJのネタバレレビュー・内容・結末

ブレードランナー 2049(2017年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

【雨は、、、雪へと変わるだろう♪】

 さすがの内容でした。
 もちろん些末な出来の悪さはあります。なにより長過ぎ、テンポ悪すぎの誹りは否めないことも理解。前作を知悉していないと味わい深さも半減というハードルの高さも娯楽作品としていかがなものかとも思います(一緒に長時間の鑑賞につき合ってくれた奥さんには、まず「ゴメンね」と陳謝!笑)。

 が、さすがの内容でした。
 人間とは?生命とは?という根源的な謎をシリーズを通して問いかけており、そして前作同様に、人間らしいのは人間よりレプリカントだったんだという非情なるカタルシスを通して、我々人間に、より人間らしく生きないといけないよ、と優しく教えてくれているのでした。

 10代で受けた衝撃を、30数年後に再び味わえる喜び。今作品の重要なモチーフも30年前の鑑賞体験あってこその味わいなのでした。
 かつての名作の続編、焼き直し、リブートなどが多く、ネタ切れ、過去の遺産の喰い潰し等々の批判の声もよく耳にする昨今。初めて続編であることに意味があった(意味を持たせた)作品だったと恐れ入りました。天晴れ!!



(ネタバレ含む)



 リドリー・スコットが総指揮を振い、ドゥニ・ヴィルヌーヴを監督に据えた点、非常に納得。ヴィルヌーブの前監督作の『メッセージ』でも”記憶”が重要なモチーフだった(と思わせての大どんでん返しなんだけど)。人間らしさって何?の本作での答のひとつが「記憶」だと理解しました。

 記憶で思い出すのが去年観た井上雅貴監督の『レミニセンティア』(http://www.remini-movie.com/)。 記憶をテーマに哲学的な思索に富んだユニークな作品で、記憶ってなに?自分ってなに?を考えさせられる非常に興味深いSF作品だった。斯様に「記憶」はSFにとっては王道の使い古されたテーマではある。それを娯楽作品として観せることの難しさはあるけど、成功した時の醍醐味たるや、というものだろう。

 今年ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロの代表作『私を離さないで』も、過去の想い出、記憶に「離さないで!自分を見捨てないで!」と言っていた(あるいは”記憶”がそう言っていた)。想い出の場所、仲間と過ごした大切な時間、そうした記憶があることで、彼らは人であり得たし、意味ある生命であったと自らを理解した(私なりの読後感ですよ)。

 今回は、この「記憶」を巡っての扱い方、ストーリー展開が実に見事で、人間らしさ、人が人であること、自分が自分であることの意味が語られていた。
 そんな観点で、この30年以上前の作品の続編は、続編故の大成功と言っていいと思うところ。なにしろ観る側に当時の「記憶」があるのだから(なので、本作を初見で観る人、直前に予習で前作をさらっただけの人の楽しみは半分くらいじゃないか?と申し訳ない!)。

 今回、時間がなかったこともあるけど、敢えて前作を見直すことはしなかった(ちゃんとDVDを持っているのに)。お陰様で、それが良かったと思っている。数々のシーンで、当時を思い出させてくれる演出が山ほど出てきて、シナプスを刺激されて記憶が繋がる快感を鑑賞中ずっと味わっていた。そんな記憶を、想い出を持っていることが、人として、人間としてなんと幸せなことかと心から思えたから。そんな幸せなドーパミンが出ている中で鑑賞する本当の記憶を持たないレプリカントの哀しみの深さ!このギャップたるや!!

 今回の主役は、大のお気に入り役者のライアン・ゴズリングくん。情けない役、かわいそうな役をやらせたら天下一品の彼が、二代目ブレードランナーを務めてくれて、本当に心から感謝!!

 (ネタバレになりますが)

 彼がレプリカントであるということは、悔しいかな前情報で少し入れ智恵されてからの鑑賞だったけど、レプリカント故に記憶が移植されたものであると知った時の、彼のショックを慮るに、なんとも形容しがたい絶望感がひしひしと伝わってきて、もう涙なくして観れなかった(T-T)。

 前作のラストシーンは雨が印象的だった。当然、その世界観を彷彿させるシーンも多かったけど、本作はラストでそれを「雪」に変えた。見事な演出だったなぁ。
 前作、雨の中で最後のバトルを演じるレプリカント=ルトガー・ハウアーは、ハリソン・フォードに、自分達レプリカントは宇宙の過酷な労働環境で信じられないような景色を見てきたと言う(悲惨なもの、美しいもの含め)。それがやがて自分の命と共に消えていくと訴える。「時がくれば涙のように雨のように」と。そして「その時がきた」ことを悟り、奪えたはずのハリソン・フォードの命を救って絶命する。雨のように流れ消えゆく命の儚さゆえの尊さを、誰よりも解っていたのは人間でなくレプリカントだったんだと、子どもながらに感動したもの。

 今回は「雪」でした。
 少し前のシーンではライアンくんの手のひらで溶けて消えた雪。それはレプリカントが持ち得ない記憶の暗喩。
 そして、ラストシーン。「その時」が来たライアンくん。ルトガー・ハウアーのように宇宙空間での絶景は見てはいないけど、「奇跡」を見ることができた、その手助けをすることができた。自分にも忘れがたい想い出が、記憶ができたと安堵したような表情。その喜びを静かな笑顔で噛みしめ横たわる。

 降る雪は、徐々に体温を失っていく彼の身体に音もなく積もっていく。あたかも「記憶」が彼の心に残るかのように。。。(涙)
YAJ

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