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ブレードランナー 2049のTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

ブレードランナー 2049(2017年製作の映画)
4.8
レプリカントは人間の夢を見るか?


世界中に熱狂的なファンをもつカルトSF映画「ブレードランナー」の続編。製作までものすごく遠い道のりでしたが、ハリソン・フォードが健在のうちで良かった。

お馴染みの酸性雨が降り続ける未来都市やゴミクズだらけの忘れられた土地などのロケーション、巨大な建造物から飛び回るハチまで驚異的なイマジネーションが支配する映像美はもとより、鋼鉄もひしゃ曲げる大きなウネリのような音楽が非常に特徴的。
劇場の壁も思わずビリビリする威圧感。
普通の劇場でさえこうなので、IMAXや爆音上映だと想像つきません。

実を言うと、前作は個人的にはそこまでリスペクトした映画ではなく、何度かビデオをレンタルして観たりはしていても途中で寝落ちする事もあったり、どちらかというとゲームの「スナッチャー」(あのメタルギアが登場しますよ)の元ネタという認識の方が強いぐらいでした。
本作を鑑賞するにあたって、前作の復習的鑑賞も必要かと思いましたが結局観ること叶わず、子供の頃にテレビで観た朧気な記憶を頼りにするしかない状況に。
しかし、実際に観てみると、前知識として「ハリソン・フォード演じるデッカードがレプリカントのレイチェルと逃走した」という事さえ知っていれば大丈夫だと思いましたよ。
細かい世界観などは、雰囲気を読めば自ずと理解できる作りになっていたかと。
と言うかシナリオがとても親切で、物語は難解さよりも解りやすさ優先のような気がしました。
哲学的な問いかけみたいなものもあったりするので難しく観てしまう傾向もあるかもしれませんが、基本的に「みんな人間になりたいんだなあ」と理解すればOKなのではないでしょうか。
散りばめられた伏線も鮮やかに回収されるし、うまいこと二転三転するので、テンポが良いとは言えない映画ですが最後まで興味深くストーリーを追うことが出来ました。

本筋は本筋で、デッカードを巡る謎に挑戦し、次第に自分自身のアイデンティティが重要なファクターになってくるライアン・ゴズリング演じる主人公の捜査官Kに目が釘付けになりますが、本筋から微妙に離れたKのプライベートな部分に一番興味を惹かれました。

Kには恋人がいます。
それはウォレス社が販売している、人工知能とホログラフィック技術を合わせたサイバーな「恋人」。
擬似的な感情を持ち、疲れ果てて帰宅するKに最大限の優しさと癒やしを提供する理想的な恋人・・・ただし、触れることは決して出来ないのです。
そんな彼女・・・ジョイをKは愛します。
自分もレプリカント、言うなればジョイと同じ「人間もどき」に過ぎず、共感するのかもしれません。

Kへの愛が高まったジョイは、以前、Kと接触をもった娼婦を呼びます。
娼婦の身体とリンクして、Kと肉体的に愛し合おうとするジョイ。
それは本当の意味での二人のキスでもセックスでも無いわけですけれど、量産品に過ぎない人工知能がそこまでの愛情を感じるようになること自体、なんだか凄いことの様な気がします。
これは、Kが(自分では意識していないにせよ)誰よりも人間になりたい、人間らしくありたいと思っていることを反映して、ジョイの擬似的感情が能力を超えてカスタマイズされた結果なのではないでしょうかね?
このシーンでの、ジョイを演じるアナ・デ・アルマスが実にキュートで美しく、圧倒的に魅力的。
こんな娘に迫られたら、そりゃ誰でも断れませんよ。

人間ならざる者同士の美しい愛を感じられる名シーンだと思いますが、娼婦を帰すジョイの心情は、やはり肉体を持てない我が身を呪っているような気もしました。
だからこそ、精一杯の愛情を示すために危険を犯してもKとずっと一緒にいることを望んだのでしょう。
健気すぎて、ホログラフィックだろうが何だろうが惚れちゃいます。
うちにも欲しくなってしまいました。

・・・という事を踏まえての、ジョイの巨大な立体広告(しかも全裸)が満身創痍であるKをつかまえて話し掛けてくるシーンのやるせなさと言ったらないじゃないですか。
感情が無く、瞳も持たない(ように見える)・・・たんなる広告でしかないジョイ。
あんなにも自分を愛してくれたジョイはそこにはいないのです。

しかし、逆に踏ん切りのついたKは、ある言葉を思い出すのでした。
「大義のために死ねることこそ、最も人間らしい」
大義のため、つまりは信じる何かや誰かのために死ねるのが人間だと言っているんですね。
決意をかためるライアン・ゴズリングの表情が素晴らしい。


しんしんと雪が降り積もるラストは、本当に泣けました。
レプリカントと人間。
本作に登場する殆どの人間は愚かで、時には機械的だったりします。
では、レプリカントは?
行動や想いが人間らしさを決めるのであれば、本作の中で誰が一番「人間」と呼ぶに相応しい者だったのか・・・?


決してSFアクションではなく、これは純粋なSFですので、娯楽性重視の活劇を期待するのは間違いのような気がします。
しかし、是非とも多くの方に観てほしい映画です。
不穏な時代を迎えている現在だからこそ、人間とは何かを問いている本作のような映画を観て、大切な事について考えるキッカケにするべきではないかと強く思いました。
さすがはヴィルヌーヴ、(下地があったにしろ)SFであろうが何であろうが、キチンとしたドラマに仕立てる演出力は半端ありませんね。


劇場(シネプレックス平塚)にて