Aria

ブレードランナー 2049のAriaのレビュー・感想・評価

ブレードランナー 2049(2017年製作の映画)
4.5

ぎゅっと胸が苦しくなるシーンが
多数あれど、見終わった後は
不思議と清々しい気持ちに。

Kの終盤の行動に後悔や迷いはなく
彼自身も満足げな表情をしていたから
でしょうか。

ステキなラストシーンでした。


前作同様
人間とは何なのか?
何を以って人間とするのか?
をとても考えさせられた。

身体はれっきとした人間だが
冷酷で無慈悲な行為を行う者。

心を持ち愛する事を知っている
レプリカントやホログラフたち。

前作のレプリカントたちは
奴隷労働を強いられながらも
自由に考え、行動(反乱)を起こすことが
できたが

2049で登場したレプリカントは
変わらず労働をしているが
感情や行動に制限がかけられていた。
前作でのタイレル社製の失敗をもとに
ウォレス社が修正をした感じ。

感情に異変が無いかをチェックし
問題がなければ報酬もらう。
この時代のレプリカント達は
生きるために感情を殺していたのだろうか。

街中でのレプリカント達への差別も
前作より酷くなっているように感じた。

2049では制限をかけられているからか
キャラクターに強い個性は無かった。

しかし、だからこそ不意に見える
《隠しきれない愛》がとても切なく
より一層人間味を感じた。


人間とは、については
私は前作で感じた考えと全く
変わっていません。

人間もレプリカントも変わりは無く

誰しも良い面を持っていれば悪い面もある。
強者もいれば弱者もいる。

生まれ方が違うだけ。
人種や性別がバラバラなのと同じ。

人もレプリカントもほとんど同じで
体の作りや記憶の根元が違うのみで
もはやそれは個性なのだと思う。



※以下ネタバレに言及しているため
未鑑賞の方はご注意ください。










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●K(ジョー)の選択
平静を保ち同類を探して殺す仕事をし
家に帰ると仮想の彼女ジョイと
他愛もない会話をする。
ジョイにプレゼントを贈り
喜ばせる一方で、キスの最中の
着信で興醒めして仕事に向かう。

一見、感情が死んだ
レプリカントの日常のように思えるが
Kの1日は人間と大した違いはないと思った。

職場では真面目な顔つきで
業務に集中し、
家に帰るとリラックスのひとときを過ごす。

レプリカントという情報を無しで見ると
いたって真面目な青年の光景なのだ。


しかしK自身は
自分が何者なのか分からず
レプリカントとして機械的に
淡々と日々を過ごしていた。

そんなKは自分が
デッカードとレイチェルの子どもでは
ないかと感じ始めてから
大きな動揺を見せる。

自分の正体、出生を知ることは即ち
自分が何者なのかを知るチャンスなのだ。

行動を監視され、制限されている中
自分の生い立ちを辿ろうとするK。

木馬を見つけたシーンでの
動揺っぷりは見ていて苦しかった。

これまでのKは
レプリカントとして造られた身体、
造られた記憶で成り立っていた。

しかしレイチェルとデッカードの
子かもしれないという疑惑は
これまでのアイデンティティを
否定するものであり

自分自身が何者なのか
何者であるべきなのか分からなくなった
瞬間ではないかと思う。

誰だって自分の親が
違う人物と分かったら
混乱して取り乱すだろう。

人として当たり前の
反応なのだと思う。
木馬のシーンは
Kは人間であると言えるシーンでもある。


「大義のために死ぬのは
人間らしい。」

反乱軍の女性が言った言葉。

この言葉の通り
Kは身を呈してデッカードを守り
アナの元へと案内した。

怪我を負ったまま
研究所の前で仰向けになるK。
死を悟ったかのように
先のセリフを思い出す。

レプリカントであるKは
最後は人間として死ぬ事を選択した。
人間らしく、ではなく私は
人間として、と思いたい。



●ジョイの愛
映像として映し出される彼女は
紛れも無く創造物なんだけれども
感情の表現が完全なる人間。
死への恐怖や、最後の言葉のチョイスまで
人を愛する一人の女性だった。

ウォレル社の技術がすごいのか
科学を超えた奇跡なのか…。
答えは分からないけれど
私は奇跡だと思いました。


●ラヴの本心
ウォレスの右腕として働く彼女は
レプリカントで冷酷なキャラクター。
しかし人を殺したり殺される場面になると
必ず涙を流す。これは何故なのか。

あのシーンを見ながら
ジェームズランゲ説が浮かんだ。

ラヴは悲しいから泣くのか
泣くから悲しいのか

私は後者だと思った。

人が死ぬ=悲しい事であり
本能的、生理的に涙が流れる。
悲しくて泣くのではなく
一種の人間のお決まりとして
涙が流れているように見えた。

感情があったとしても
心が死んでいるから
奴隷労働を徹底できる。

つまりウォレスにとっての最高傑作。

ウォレスはこうして
レプリカントの感情や行動を制限し
さらには生殖まで操ろうと目論んだ。

ウォレスの目が見えない?事。
耳の後ろにデバイスのような物をつけて
五感を操っているのか…。

彼の機械的な見た目や
非人道的な行動を見て
やはり血の通った人間とは言い難い…
と思いました。

前作ではタイレル氏については
然程触れられておらず
そこに焦点を当てるのは
テーマからずれるのでしょう。

ウォレスも同様触れられず。

レプリカントを創り出す事そのものが
問題なのではなく
差別や人間とは何かを
問いかける物語なのだと思いました。
Aria

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