一人旅

午後8時の訪問者の一人旅のレビュー・感想・評価

午後8時の訪問者(2016年製作の映画)
3.0
ジャン=ピエール/リュック・ダルデンヌ監督作。

遺体として発見された身元不明の少女の調査に奔走する女性医師の姿を描いたヒューマンサスペンス。

『イゴールの約束』(1996)『ある子供』(2005)『サンドラの週末』(2014)のベルギーの名匠ダルデンヌ兄弟によるヒューマンサスペンス。ダルデンヌ兄弟は一貫して現代社会が抱える諸問題を描き続けてきましたが、本作の場合もヨーロッパの貧困・移民問題を背景に置きながら人間の本質と在るべき姿を映し出しています。

診療時間を過ぎた午後8時にインターホンが鳴ったものの応答しなかった女性医師ジェニー。翌日川岸で遺体として発見された身元不明のアフリカ系の少女が診療所の防犯カメラに映っていたことを知ったジェニーは「あの時ドアを開けていれば少女の命を救うことができた」という深い罪悪感に心を苛まれる。居ても立っても居られなくなったジェニーは少女の調査を独自に始めるが、やがて彼女自身にも危険が迫って…という“名もなき少女を巡る女性医師の苦悩と奔走”を描いたヒューマンサスペンスですが、サスペンス要素はあくまでオマケ程度です。

ダルデンヌ兄弟はジェニーの姿を通じて“人間が当たり前に持つべき良心と感情”の必要性を改めて訴えかけています。物語の背景にはヨーロッパの移民問題が存在します。名前のない少女は貧困に喘ぐ移民全体を象徴する存在として映り、名もなき移民の少女に対して人はどう向き合うべきなのか、兄弟は問いかけています。その答えは明白で、人としてごく自然の感情を持てばよいのです。移民による犯罪がセンセーショナルに報道される昨今、移民に対する憎悪・排斥の動きが高まる中、ジェニーは身元不明の移民の少女の死に対する罪悪感に一人苦しみ続けます。このジェニーの姿こそが人として本来在るべき姿なのです。移民に対する憎悪の感情に振り回され、人として大切な感情を失ってはいけない――ダルデンヌ兄弟は人に寄り添い続けます。

主演のアデル・エネルが出色の演技を魅せます。表情の変化に乏しい淡々とした演技ですが、内に秘めた強い覚悟と責任が滲み出ています。
一人旅

一人旅