TAK44マグナム

サバービコン 仮面を被った街のTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

3.0
本当のケダモノは誰なのか。


コーエン兄弟脚本のスリラーをジョージ・クルーニーが演出。
主演はマット・デイモンとジュリアン・ムーア。
オスカー・アイザックも重要なポジションで出演。


1960年代のアメリカ。
理想的な街、サバービコンに黒人のマイヤーズ一家が越してきてすぐ、隣家のロッジ家に強盗が入り、母親のローズが殺されてしまいます。
マイヤーズ家に対する排斥運動が酷くなる中、ロッジ家では密かに事件が続いているのでした。
幼い息子ニッキーは、ある真実を知ってしまった為に命を狙われてしまうのですが・・・


う〜ん、捻りが足りない。
特に前半は退屈。何が起きてるのかはすぐに理解できますが、割とこじんまりした単純な話で正直いって地味です。
オスカー・アイザックが登場してからは少し持ち直しますが、ジョージ・クルーニーの演出は平板な気がしました。
ところどころ、おっと思わせるカットや、マット・デイモンが子供用のチャリンコを漕いでいる姿が笑えたり(あと、やたら苦虫噛み潰した表情で握力鍛えてたり)、そういう部分もあるにはありますが、圧倒的に普通すぎ(汗)


他の評を読んでみると、人種差別問題とロッジ家の問題が殆ど絡まない事に対する不満が大きいみたいですね。
まさしくその通りで、マット・デイモンたちは自分の事で精一杯なので、隣家が焼きうちに合いそうになっていても気にも留ません。
なので、両者は剥離したまんま、最後まで絡まない。
唯一の接点と言えば、子供同士が友達になるというところだけです。
塀を挟んで子供達がキャッチボールをしている図に、何か言いたいテーマが集約されているような気がしましたが、うまく言えなくてもどかしい。
子供は大人より純真という事なのかな。大人の腐った都合なんて彼らは知らんものね。

本作における人種差別問題は、実は60年代(黒人の地位向上が叫ばれていた時代)の新興住宅地という舞台設定から持ってきた「もっともらしい、ある種のミスリード」であって、主題は「あなた、隣家のこと本当によく知ってるの?」なのではないでしょうか。
肌の色でケダモノと決めつけて排除しようと躍起になっているすぐ側に、本当のケダモノが潜んでいるという恐ろしさ、そして滑稽さを描きたかったのでは?
大体、差別意識なんて持っている時点でロクな者じゃないし、21世紀の現在でも通じるテーマだと思います。
ギレルモ・デル・トロが「シェイプ・オブ・ウォーター」の時代設定をわざと60年代にしたのは不必要な色眼鏡でみられる事を回避するためだと語っていましたが、もしかしたらコーエン兄弟も同様の考えで本作を60年代の話にしたのかもしれませんね。

理想を具現化した最高の街、サバービコンは(白人の)善人の街。
しかし。
そこにひろがる住宅地の一軒一軒では、もしかしたらケダモノが何食わぬ顔で生活しているのかもしれません。
それなのに、みんなお互いを善人だと偽りあっているだけだとしたら・・・?
「あんたら善人の皮被っているけれど、一皮剥いたら何者なのか分かりゃしないぜ?」
そう言いたいのかな、コーエン兄弟?

プロットとしては、「世にも奇妙な物語」あたりで使われてもおかしくなく、特にコーエン兄弟だから素晴らしいという風には残念ながら感じられませんでした。
マット・デイモンやジュリアン・ムーアも怪演というほどではなく、至って普通、可もなく不可もなく。

それにしても、マイヤーズ家への攻撃は反吐がでるレベルで嫌悪感しかありませんでしたよ。
毎夜毎夜、「他へ行け」だの何だのと大合唱(汗)
おまえらこそ近所迷惑だから辞めれ!と言いたくなりましたよ、ほんと。

兎にも角にも、ひたすらニッキーが可哀想な映画でした。
子役が上手いだけに、マット・デイモンと対峙する終盤の場面は悲しみと怒りでいっぱいになりました。
なんちゅうクソ親なんだ!
そういった部分では、マット・デイモン、良い仕事していたかも。


そこまで予想を外してくる映画では無いので、それこそキャストに好きな俳優さんがいるとか、コーエン兄弟の作品は外せないとか、ジョージ・クルーニーの監督ぶりに興味があるなど、何かしら理由が無いかぎり特に必修映画というわけでは無いような気がします。
将来、カルト映画化するとも思えませんでしたし・・・

ただ、もしかしたら、サバービコンを舞台に、何作も物語が作られる可能性も無きにしも非ずなのかもしれませんよね。
あれだけ住人が居るんですから(人口6万人ぐらいらしい)、他にも色々な事件が起きてもおかしくない。
「デスパレードの妻たち」に倣って、「サバービコンの夫たち」なんてどうですか。
一見まともに見える街なのに、その実、住人の殆どが殺人鬼や変質者ばかりで事件が絶えない、なんて感じで。

・・・どこかで聞いたような企画だからダメかな(苦笑)


劇場(109シネマズ湘南)にて