ずどこんちょ

ハクソー・リッジのずどこんちょのレビュー・感想・評価

ハクソー・リッジ(2016年製作の映画)
3.9
沖縄戦で衛生兵として従軍したデズモンド・ドスを描いた戦争映画です。
今まで見てきた戦争映画の中でも圧倒的なその勇敢さに感動しました。
まさにドラマ!戦争を美化するのではなく、戦うことを拒んだ兵士が、命が奪われていく場所で一人でも多くの命を「救う」ドラマです。

大きく分ければ3部構成。
まず序盤では、いてもたってもいられなくなって軍に入隊したものの信仰上の理由から銃を持つことを拒否したドスの信念の強さが描かれます。
そして中盤では、激しい戦闘が繰り広げられた沖縄戦の様子。
そして終盤では日本軍の必死の抵抗により米軍も一時退却した高地の上で、一人で残ってまだ生き残っている兵士たちを崖上から救出した孤独で勇敢な戦いを描いています。

たった一人で、銃も持つことができずに負傷兵を引き上げ続けました。
米軍は撤退し、日本兵がそこらに生き残っている米兵を殺すために見回っている中で、四六時中走り回って75人もの負傷兵を救ったのです。
この功績からドスは良心的兵役拒否者として史上初めて名誉勲章を授与します。
始めのうちは銃を持つことを拒否するドスにあの手この手で嫌がらせをしてきた仲間たちや上官らも、彼の勇敢な行動に尊敬の眼差しで気持ちを改めます。
戦場では相手を「殺す」ことのみが功績ではなく、命を「救う」ことも立派な貢献です。ドスの信念はそれを分からせてくれました。
命に分け隔てなく介抱するドスは負傷した日本兵も救い出すというのが、信仰心を基に動いているという軸が徹頭徹尾ブレていなくて、非常に好感が持てます。

戦場の戦い方もただ闇雲に撃ち合うような戦闘ではなく、よりリアル。そこが良かったです。衛生兵を必要としている戦場であることがよく理解できたから。
下半身がなくなった死体を盾にしながら進んだり、手榴弾を投げられたら敵兵を押し倒して背中の下で手榴弾を爆破させたり、手榴弾を手に持ったまま胸に押し付けてくる日本兵と鬼の形相で取っ組み合ったまま共に爆死したり。日本兵の潜む壕に近付くともはや近接戦。銃撃ではなく、互いに拳で殴り合うのです。
爆破や銃撃戦は映画的に派手になりますが、詰まるところ、本当の戦場はこのように理性を失った地獄絵図なのでしょう。壮絶でした。今まで見た戦争映画の中でも一番残酷で、でもおそらく一番嘘偽りなかったです。
太平洋戦争中、唯一日本での地上戦となった沖縄の戦い。ここを突破されたら日本は敗戦確定です。敵も死を恐れず、大挙して押し寄せてきます。
米軍にとって、遠い異国の地で本気で殺されることがどれほど脅威だったでしょう。戦況的には日本軍に不利でも、精神的には確実に米軍の士気を削いだ戦闘だったのです。

そんな中でドスが一人でも多くの兵士を救ったのが、彼らにとってどれほど心の支えとなったことか。もしもドスがいなければ、75人の負傷兵はいずれ高台の上で日本兵に見つかって動けないところを殺されていたことでしょう。
地獄の戦場に降り立った神の使い。終盤、ドスが担架で高台から下されるシーンはそれを意図してか、光に包まれ空を舞っていました。