ミーハー女子大生

ハクソー・リッジのミーハー女子大生のレビュー・感想・評価

ハクソー・リッジ(2016年製作の映画)
4.3
ずっと観ようと思って観れていなかった本作を観賞しました。
本作の酷評から絶賛まで多くのレビューを拝見しました。
感想は後述します。

タイトルの「ハクソーリッジ」とは【弓鋸(ゆみのこ)型をした絶壁】と言う意味で沖縄戦最悪の激戦地となった前田高地の絶壁を指しています。

本作品には大きく3つの特徴があります。
・M.ギブソンが監督である事。
・デスモンド・T・ドスの偉業と言うより「彼の人間性」を描いた作品である事。
・高田高地の激戦を舞台にしていながら勧善懲悪になっていない事。
この3つが本作では非常に深い意味を持っています。

[M.ギブソン監督作品]
彼は敬虔なクリスチャンで原理主義派の信仰者です。
そしてデスモンド・ドスもクリスチャン(彼はセブンス・アドベンチスト教会と言う新派の信者)で、彼の偉業の裏には敬虔な信仰心が背景にあり監督が映画化に強く惹かれた事が伺えます。
作品の随所にその影響が見て取れます。

[デスモンド・ドスを描いた作品]
日本では全くと言って良い程知名度の無い彼ですが、アメリカの年配層世代には結構知られた人らしいです。
そして、この作品は単に彼の偉業を描いただけの英雄伝にはなっていません。
(ここは結構重要です)
彼の生い立ち、信仰に対する意識の変化、信念、人間性、戦場での葛藤等が巧みに描かれていてその事が脚本にも反映されています。
教義上、安息日の遵守、非暴力、菜食主義を信条としていました。

[高田高地の激戦が舞台]
日本にとって高田高地での戦闘は沖縄を死守する為の最後の砦となる非常に重要な戦闘でした。
その為に何としてでも死守しなくてはならなず「死に物狂い」の戦闘であった事実からもまさに地獄絵図でした。
アメリカ側からしたら「日本軍は死を恐れない、決してあきらめない」と言わしめるに十分足る激戦だったのです。

それらを踏まえストーリーは
前半はD.ドスが軍隊に志願するまでの半生を、信仰の背景となる生い立ちと人生背景をベースに描かれています。
中盤からは、入隊してからの信念と現実との間の苦悩と葛藤、偉業を成すまでを描いています。

キャスティングは…
主演はスパイダーマンで知られるA.ガーフィールド。
弱々しさからも適役です。
ヒロインのT.パーマーは実に魅力的だし
周囲のバイプレーヤーも味のある良い役者で固められています。

脚本は…
史実に沿いつつも余計な説明染みたところを排除した内容になっています。
日本人としては心の痛いセリフも多々あるのですが当時(戦時中)の時代背景を考えると当然な内容です。

そして本作高評価の一番の理由である演出!
これが本当に素晴らしい。
アメリカ人であるM.ギブソンが沖縄での激戦を描いていながら、アメリカ贔屓になっていない!
無駄に日本人や”沖縄”を描いたりせず、D.ドスの偉業を過剰演出する事無く、
「戦争とは」をリアルに描いています。
一般人を多く巻き添えにした沖縄戦ですが、戦場では善悪なんてどうでも良い程の殺戮の繰り返しで、アメリカ人も日本人も同じ様に殺され倒れていく様をまざまざと見せつけられその恐怖感は凄いです。
日本人としては先人たちの覚悟と死闘に、監督なりの日本人戦死者に敬意を祓った演出に涙が溢れました。

そしてエンディング
宗教色が強いとのレビューも散見しましたが、監督がM.ギブソンである事、D.ドスを描いた事からも本作特有の演出となっています。

レビューを多く拝見しましたが、作品の本質からズレたレビューの多さにガッカリしました。
日本人を蔑視するセリフの多さは時代背景や舞台を考えれば間違ってはいません。
日本軍人の描写が少なく切腹シーンが印象深いですが、敢えてそこを描かない事で誤解を避け、日本軍人が敗北を苦に自らの命を天皇と国家の為に自害する事は戦地では往々にしてあった事実です。

そもそも日本人として(アメリカにとっても)高田高地での激戦がどう意味を持っていて、沖縄戦が実際にどんな戦争でどんな歴史背景があったのか、D.ドスの偉業を描いていながら何故タイトルがハクソーリッジなのか、
歴史認識と過去の知識がちゃんとあれば実に良く作られた作品だと感じる筈です。

画面に繰り広げられる映像と耳にするセリフだけで作品を捉えるエンタメ作品嗜好の人、時代認識の薄い人にはこの作品の本質と素晴らしさを理解するのは難しいのかも?

この作品は点数こそ高いですが、邦画の質が落ち日本映画界が衰退する一因は鑑賞する側にもあるのかとレビューを呼んで思いました。

が、この評価(点数)は正しいと思います。
一人でも多くの人に観て頂きたい作品です。

拙いレビューを最後まで読んで頂きありがとうございます。

ストーリー 5
演出 4
音楽 3
印象 5
独創性 5
関心度 4
総合 4.3