Aya

ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャーのAyaのレビュー・感想・評価

3.6
#twcn

ホルトくんの1940年代アメリカハンサムイケイケゴーゴームービーかと思いきや、サリンジャーの作家姿勢にとても納得する良作でした。

ホルトくんてあんなに美しいのに、なんとなく自信が無さそう、というか、イケイケ感がないというか、あんまり幸せそうに見えないというか、能動的というよりは受動的な雰囲気がありません??

それがまたサリンジャーというかなり謎の多い作家役に合っていると思います。

この映画の学校に通い始めてケヴィン・スペイシー演じるウィット教授(に対して面白い(ウィットに富んだ)講義しろ、みたいなクソ生意気ながらもうまいギャグシーンがありましたねw)に出会うことで、遊びまくり、ナンパしまくりのイケイケ独身作家志望がウリの青年がぐっと変わります。

ウィット教授は生意気なサリンジャーに対して、きちんと才能を認めてくれます。
しかし、世の中そんなに甘くない。
彼が生み出したモラトリアム青年「ホールデン」は素晴らしいキャラクターだから、彼の作品を書き続けろ!
しかもサリンジャーが書けない書けないという長編を。

なんか短編しか書けないサリンジャーって結構わかる。
ちょっとしたエピソードは書けても、その掘り下げ、もしくは起承転結は書けない。
もちろん作家として致命的なのですが、それがサリンジャーという青年だった。

いろんな出版社に持ち込んで、どんどんボツをくらいまくる。
しょげるサリンジャー。叱咤するウィット。
しかし、初稿が見事ケヴィン・スペイシーの発行している雑誌に載り、ニューヨーカーとも話が進む中、やっと作家としての道に真剣に取り組もうとした矢先・・・パールハーバーが起こり、第二次世界大戦が勃発。
サリンジャーは徴兵され、イギリスへ行くことに。

そこでの経験が彼を決定的に変える。

この映画もまたヒロインの一人としてゾーイ・ドゥイッチが出てるのどうゆうこと?!マイミューズ伝説は今年もまだまだ続いているようです。
しかもこのゾーイ、白粉が白すぎ、口紅が赤すぎでそれ似合ってるのか似合ってないのか、もはやゾーイ・ドゥイッチなのか最初わかりませんでしたw

そんなゾーイに戦争中、チャップリンに結婚されるのも辛い。
極寒の地、仲間たちが死にゆく戦争、そして収容所の人々。
この世で一番意味のない残酷な世界、戦争に身を置くことで彼はどんどん心を閉ざしてゆく。
一時、PTSDで精神病院へ入院。

そして、アメリカにツンケンした妻を連れ帰り、戦争中の自分を支えてくれた待望の長編「The Catcher in the Rye」を書き上げる。
(即離婚)

様々な出版社から引く手数多だが、要所要所の書き直し、宣伝、書評に至るまで制限しまくりのサリンジャー。
もう頑な極まりない。

そんな中出版された「The Catcher in the Rye」は大ヒット。
あんなに読まへん!て言うてたのにべた褒めの書評読みまくっとるやんけ。
そして「ライ麦畑で出会ったら」のアレックスよろしく「このホールデンは自分だ!」と言うモラトリアム人が続出し、サリンジャーを追いかけ回す自体に。
私生活すら支障を来す彼は田舎での隠遁生活に入る・・・。

新しい女や子供まで出来てもどこまでも頑ななサリンジャー。
生き方が下手くそだし、生きづらい。
元々は社交的な性格の青年であったのに、戦争は彼をここまで変えてしまったのか・・・。

またケヴィン・スペイシーとの短編集出版を巡ってのいざこざをめっさ根に持ってたり、禅と出会い実行することは、彼があの戦争体験を経て生きていくのに必要だったのだろう。
必要だったのは書くことで、名声でも他人の支えでもなかったのでしょうね。

作家実話ものとして、とてもよく出来ています。
出版社のアレコレやホールデンの作品がいくつか出てくるので、私のようなサリンジャー弱者にはわかりづらい点もあるだろうが、不思議な点はなく、きちんと整理されていると思います。

すごい大変なことがあったわけじゃないけど、どんどん頑なになっていくサリンジャーには同情を禁じ得ない。
ただそこまでする?という気もするのですが、あれ一作で食べれてるんだから、もういいんでしょうね。

実は今日、チケットを持っていることに気付き(京都で見るか横浜で見るのかわからない時期だったため珍しくムビチケ購入。そしてそれを忘れるw)、ダメ元で聞いてみたら、ムーブオーバーのミニシアターで且つ発券後にも関わらず、快く応じてくださった出町座さんセンキュー。


日本語字幕:山門 珠美
Aya

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