Aya

ワース 命の値段のAyaのレビュー・感想・評価

ワース 命の値段(2019年製作の映画)
3.5
#twcn

原題”What Is Life Worth”

なるほど。

“Worth/価値”

の部分を資本主義&訴訟大国アメリカらしく”値段”として日本語タイトルを付けたのね。

ロングライド様ナイス。

正直、911テロはニュースや映画などで見ていたけれどこんなに多くの遺族のお話を聞いたのは初めてだ。

特に今年は外国のニュースを開けば戦争。
日本語のニュースを開けば暴力…ニュースを見るだけ(読む前の段階で)こんなに心が傷つけられることもない、というほど辛い事象や報道が多かった。

20010911

ワシントンの弁護士先生マイケル・キートンの元へ司法省からの依頼が。

何かと思ったら…

テロではあるが事故とも言える。

被害者や遺族が航空会社を訴えれば勝っても負けても破産。

飛行機が飛ばないと米経済に大きなダメージが加わる=テロに屈したことになるから阻止せねば!

とな。

つまり被害者の救済ではなく、航空会社や公営団体への提訴を阻止すること。

賠償a.k.a民間企業への政府介入だった。

あの戦争の元でそんなことが起こっていたなんて…いや想像に容易いけどそこまで頭が回らなかった。

同じ会合に呼ばれ同じ相談を受けた弁護士スタンリー・トゥイッチは『人に値段をつける汚れ仕事だ』と言い切って依頼をはねのける。

しかしマイケル・キートンは『毎日悲しむ人を見るのはうんざりだ。助けたい』と言い出し、補償額を決める特別管理人に立候補する。

しかもマイケル・キートンはそこに政治を持ち込む。

さすがやりて弁護士。バットマンは寡黙でもマイケル・キートンの弁は巧みだ。
職業が変われば同じ正義のためでもやり方が違う(えっ)

時は共和党保守ゴリのブッシュ政権。

前代未聞の事象。
リベラル派のマイケル・キートンを起用することで成功しても失敗しても現政権へのダメージはない。

そしてそこには目標も設定されている。
全被害者&遺族への補償についてやく8割へお金を支給すること。

その上マイケル・キートンが無給で引き受けると言い出し、自身の事務所の敏腕弁護士や教授時代の優秀な教え子を集め特別チームを結成する。

元々、対政府・大企業になりがちな社会問題を扱てきたスペシャリスト。

彼の狙い本当に救いの手を差し伸べたい、だけなのか?

あまりにも多い被害者&遺族a.k.a該当者。
そして深い傷。

危機管理、とは?

と言いたいところですがこんなテロ事件”attack”は予測出来得る不測の事態”ではないからね…

でも地震だってハリケーンだって”予測出来ない不測の事態”だよ…

いきなり超ゴタゴタして0から作り始めるアメリカを見ていかに日本が備えあるか実感しましたね。

個人的な話ですがわたしは今、病院のマネジメント的なお仕事してるので規定a.k.a契約の大切さはわかるつもりです。

ルールがないとゲームははじめられない。

だから最初に全て規定するのです。

そして有事ごとにその事象、プラスアルファの不測の事態を経験しさらにその上で起こり得る”不測の事態を予測"して追加するの繰り返し。

ルール作りとは”予測出来ない不測の事態”から””予測出来得る不測の事態”へ昇華(といっていいかわからないけど)させること。

前者を減らし後者を増やし備えること。

そこで制定されたアバウトな規定と確固たる計算式。

該当の人物の給与、地域、家族、遺産などなどから鑑み遺族(この時点で被害者はほぼ置いておかれている)に払う賠償金を決める。

正直、法的、論理的に何の問題もない考え方ですよね?

現在の司法制度はそのようにして犯罪や事故などの被害者の補償や加害者の刑罰を決めているのでは?

しかしこの前代未聞の"予測できない不測の事態"は実際の被害者数や被害者自体の特定もできてはいない状態にも関わらず特別管理人である法のプロマイケル・キートンとそのチームが上記計算式を用いて政府が支払う保証額を算出する。

方や政治、論理のプロたちが被害者&遺族a.k.a素人へ説明をし理解し"金を受け取る"書類にサインを"させなければ"ならない。

だが遺族はいう”人の命の価値は同じではないか?”

計算しきってなんやねんと。

被害に遭った方、亡くなった方の遺族は"いや、計算もくそもあるかい。一人死んだ、は一緒やんけ"と。

この考え方にも何の意もない。

Rhymesterの”911エブリディ”という曲のリリックを思い出しました。

ハウマッチ? 人の命の価値
気持ちは確かに等しく同じ

まさにこの映画にぴったり…この映画の15年前のどこか遠い国で起こった大惨事を午後3時にテレビで眺めてここ日本で作られた曲です。

マイケル・キートンの元教子の若い弁護士シュノリ・ラマナタンちゃんてインド系の子がドチャクソかわいい!!

このかわい子ちゃんがチームの中で最初に変化を見せる。

毎日、被害者&遺族と面談し話を聞き続ける彼女はなんと911の次の週からWTCで働く予定だった。

そんな彼女は使命感を持ってこのチームに参加しているはずだが、かなり序盤にエレベーターの中で『あれ以来高い所と狭い所が怖くて。でも落ち着くはず』と涙を堪えながら言う。

被害者ってどのひとを指すんですかね…

同じく遺族との面談を通じてマイケル・キートンのシニカルな補佐役エイミー・ライアンも過換気に近い症状を見せる。

遠い国で時を置いてフィクションである”映画”を見ている私でさえひとりひとりの言葉に涙が止まらない。

きっつー!!!

被害者&遺族にはいろんな方がいる。

高級取りのお偉いさん、稼ぎ頭のビジネスパーソン、不法滞在者に消防士、隠し子etc…そして州法によって定義の異なる同性パートナー。

皆が皆、マイケル・キートンの作り出した計算式に意を唱える。

私が生きているうちで、いやここ数百年で最も多くの人が感情的になった最初の出来事では?

しかもこのチームは被害者&遺族それぞれと面談し、その話を聞く。
聞かなければ計算できないから。
いや、たぶん聞かなくても計算式は作動できるはずだけど形的に聞いてんのかな?

どんな人物だったか?語り部にとってどんな存在だったか?どんな人生を歩んできてどんな未来を歩む予定だったか?

そして幸運な何人かは”どんな最後だったか”も語る。

消防士の夫を亡くした妻は言います。

『あなた(マイケル・キートン)は”金をもらえ”と。同じ消防士の義兄は”闘え”と。弁護士たちは”訴えろ”と。うちの電話はなりっぱなしなのに“遺体が見つかった “という連絡は来ない。彼は私の全てだった。もう電話に出たくない。関わらないで』

と。

あの、必要なのは、お金以外にもあったのでは?

そう考えるのってそんなに難しい?

あの面談していたチームのみんなもそう感じていたけどそれは自分たちの"仕事"ではない、と割り切って頑張ってはったんやろうね。

法律家は確かに数字を釣り上げるのが仕事です。

法という規定の元それに沿った”正しい”罰と金額を与えるのが仕事です。

でも被害者&遺族に必要なのは、話を聞くこと、なのかも、とこの映画を観ていて感じました。

いや、医療人なのでその辺は分かってるけど、それと映画世界に沿って考えるのは別やと思ってたからさ。

そして、給付金の対象者a.k.a心に傷を負ったすべての被害者&遺族の方の心のケアはお金と同じくらい必要だったのでは?

わたしはちょうどこの映画を観た日、CNNニュースでイスラエル軍に拘束され裸で縛られるパレスチナの子どもたちの写真を見て思わず目を瞑ってしまった。

世界にはなぜ誰かの悪意によるこれほどまでの残酷で哀しいことが多いのか。

ちなみにわたしはこの映画、実際に途中で見るのを中断しました。

しんどいから、ではなく自宅でDVDで観ていたから…だから映画館で観た方がいいんだよ!

集中力のない私はどれだけ内容が辛くても、限定された空間で一気に観ないと、もうなんとも言えない…

まったく思い通り(目標の給付金支給)に進まないチームは焦り。マイケル・キートンも段々焦ってきます。

でも曲げない。

そこに同じく政府に呼ばれた弁護士スタンリー・トゥイッチが救いの手a.k.a計算式のなにが問題か?を訴えます。

これは被害者&遺族のためのものではない、と。

スタンリー・トゥイッチ自身も妻を911テロで亡くしている。

最初は徹底抗戦の構えを見せるが次第に自身の計算式に疑問を持ち始め苦悩するマイケル・キートンへ最初に言っていたことと変わらず"人に値段をつけるのは違う"と言いますが、計算式のやり方について具体的に指摘を述べる。

ちなみにスタンリー・トゥイッチは計算式だけでなく、誤字脱字なども推敲してくれるどこまでも細やかで優しい男w

NYでアン・ハサウェイをサポートしていたスタンリー・トゥイッチが15年後に同じNYでバッドマンをサポートするなんて…目頭が熱くならざるを得ない。

真の意味でのベスト・サポート・アクト。

ただこの辺のマイケル・キートンが自身のやってることに疑問を持ち始めた辺り?終盤の30分くらいはマジで性急。

敵対関係のはずが、お互いファーストネームで呼び合い出したね。

今まで被害者や遺族のお話をあれだけ聞いてきたのに…

と、ここでハッとしたのですが、もしかして狙いは残された被害者&遺族のお話を多く観客に届けたかったのでは?

ニュースなどではさんざん語られるもののそれは生の声a.k.a素人の感情的な語りだ。

それが悪いとか良いとかではなく、脚本として整理された(しかもこれだけ整理された無駄のない脚本)

GJマックス・ボレンスタイン。
ボレンスタインといえばキングコングやゴジラといった怪獣映画のイメージやったのにちょっと見方変わりましたね。

そしてビックリするぐらいラストの方上手くいくんですけど、計算した金額ではなく調整した金額、という一応の決着を見せるものの…

正解なんてないからね。より"マシ"なものをどう"妥協"させるか。
そして一縷の"救い"を提供できるか…

誰の言葉か忘れたけど”人生はマラソンだが歴史はリレーだ”という言葉を思い出しました。 

やらない善よりやる偽善。
そんな映画でした。


ほら!ソフトには字幕翻訳のクレジットもない( ノД`)ノ
Aya

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