曇天

手紙は憶えているの曇天のレビュー・感想・評価

手紙は憶えている(2015年製作の映画)
3.5
冒頭で主人公は老人ホームの中をヘルパーの助けを借りて歩くのだが、知人と行き交う度に名前を教えられるのをうっとおしく感じる。お年寄りというのは本当の症状以上に気を遣われ過ぎていて、それを疎んで、あらかじめ避けるための耐性がついているのかもしれない。忘れたフリや聴こえないフリ、そして知らないうちに拳銃を隠し持っていたとしてそんなこと誰も予想できない。

アウシュヴィッツの生き残りで認知症のおじいちゃんは寝て起きる度に今いる場所や妻の死など全て忘れた状態になるので、友人に持たされた手紙を読むことで思い出し、任務を続行できる。記憶喪失の奴は映画にはいっぱいいただろうが認知症の殺し屋は初めて見た。
「私はすぐ忘れるが手紙は覚えている」という意味の邦題タイトルも上手い。ホームを抜け出してからしばらくして病院の厄介になった時初めて息子と連絡を取るんだけど、その時も記憶喪失でいたのだが、女の子にお菓子をあげようとして何の気なしにポケットの手紙を取ってしまう。手紙さえ読まなければ、忘れたまま息子が迎えに来て殺しの旅はそこで終わっていたはずなのに、と思うと宿命めいたものを感じる白眉なシーン。

最後はあんな感じで…、ホロコーストのネタを使った割にはそんなに重くない、けどホロコーストのネタでこういうサスペンスできるようになってるドイツもスゴイ。もちろん老人ネタ映画としてもイイ。序盤から『最高の人生の見つけ方』を思い出しながら観た。方向性が真逆だけどやり残したことをやり遂げるって意味では同じなのも面白い…。
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