【粘り水の嵐】
アレクサンドル・ペトロフ作は、本作後に作られた『老人と海』『春のめざめ』を随分昔に見ていますが、後者の甘酸っぱい感覚を多少、記憶している程度でした。
ガラスの上に、油絵の具で描画して少しずつ動かす、このペイント・オン・グラスという手法は、一瞬すげー!と思うのですが、見続けていると正直、胸焼けします。…眼焼けか。
本作は未見だったのでトライすると、短編だからか、胸焼けまではしなかった。が、やっぱり油絵タッチは、情報デザインとしては静止画向けのもので、動画には不向きと感じた。
スラブの伝承、オホホホあたしについてらっしゃい…と誘う水の精ルサールカは、映画では馴染みがなく、直近だと『黒人魚』とか思い出す。本作のような“正統派”は多分、初めて。
本作の“溺愛”ターゲットは若い修道士。禁欲生活する童貞だろうから、イチコロですな。
人物をリアルに描くから、水中暮らしのねーちゃんにうわ、生臭さそう!と感じてしまう。だから、いくら全裸でオホホホやられても、魚臭い女じゃ水の中までは…と思ってしまうが、禁欲生活童貞であれば匂ってもイチコロ!なのでしょうね。
しかし、そもそもルサールカって、存在の要が“恨み”なのですよね。だから本作、納得ゆく結末ではあるけれど、この手の昔話あるあるだから、物語の面白みはあまり、ない。
油絵タッチを活かした、フェティッシュなシーンがあるとよかったね。それこそ粘る肌に迫って、生臭いエロスを剥き出しにするとかね。
逆に、嵐が去った後の静止画表現に、驚きがありました。愛の災厄の末路。サラッと流れてしまうショットだけれど、動かないからこそ心に刺さる。生々しい身体が、モノに転じ…。
あと、神の教えあるあるだけど、神を信じていても、まったく救いがないよね、本作でも!
<2023.4.12記>