けーはち

シークレット・オブ・モンスターのけーはちのネタバレレビュー・内容・結末

3.0

このレビューはネタバレを含みます

WWI後のフランス、ヴェルサイユ条約締結のためにやってきた米政府高官。その妻は数ヶ国語を話すドイツ系の才女で、その息子は癇癪持ちの美少年。これは彼が厳格な家庭の中で、内に秘めた“怪物”を育てて行くまでの物語。

歴史上の有名人や、フィクションの人気キャラクターの誕生秘話──なぜ、こんな人物が出来上がったのか──特に無垢な人物が凶悪に変貌する転換点を見せる作品は人気が高く、最近では『ジョーカー』が人気を博した通り。本作の場合は、邦題・原題から「怪物」と呼ばれる指導者の「誕生」だというのは想像がつくが、皆が何となく思い描く特定の人物でなく、それっぽい雰囲気の架空の独裁指導者になるという煮え切らないオチに!(つるっぱげで反キリスト教的な独裁者ということでムッソリーニがモデルらしいが、ムッソリーニの親父は鍛冶屋だしなぁ……)

思わせぶりな大戦やヴェルサイユ会議の史料を挟み、これでもかと実在の歴史をイメージさせて雰囲気ミステリー仕立てにするなら、「多少無茶な超展開でもいいから実在人物で意表を突いた衝撃のオチを作ってくれよ~~!」と思わずにはいられなかったのだった。

そのオチに至る展開も、何かあるようで、それほどでは……「そろそろ決定的な事件が起こるのか?」と期待させて、使用人の解雇など葛藤事件は起きつつも性格が変わるほどの衝撃は無く、少年は最初から悪童であり、劇中で神への信仰を捨て粗暴さを隠さなくなるが、それとカリスマ的独裁者との間は大分飛躍がある。本作は「他人に石を投げる段階できちんとしつけないと、来客中にテーブルに上がって暴れるようになる。そして、独裁者になる」と言いたいの……?


お話はともかく古びた洋館、うす暗い空間の中、厳格な両親と官能的な家庭教師&温和な家政婦の性格や少年との関係で終始画は美しいし、スコット・ウォーカーの担当する音楽もすごく良い。不安感を煽る音楽は秀逸だし、劇中で掛かる「After You've Gone」「I'm Always Chasing Rainbows(ショパンの幻想即興曲を改作したジャズ版)」も当時の空気感を出していて古びた洋館に響く音響が格調高い。監督のブラディ・コーベットは「デビュー作でスコット・ウォーカーと組んで、映画監督として今後のキャリアで音楽はどうしていくつもりなの?」と茶化されていたらしいが😅今後ますます頑張ってください……