きゅうげん

聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディアのきゅうげんのレビュー・感想・評価

4.6
最新作『哀れなるものたち』公開記念!
個人的ヨルゴス・ランティモス祭り第三弾。

心臓外科医の主人公は、美しく賢い家族に恵まれ何不自由ない生活を過ごしていた。
彼の気がかりはたった一つ。酩酊したまま執刀した手術で患者を死に至らしめた後ろ暗い過去があった。その罪悪感から患者の息子と食事をしたり贈物をしたり交流をもっていたが、聡明で謙虚な彼に主人公は好感を抱くようになる。
あるとき主人公は彼を家族に紹介するが、しかしそれが悪夢のはじまりとなってしまうのだった……。


とにもかくにもコリン・ファレル!
あらゆる究極の場面で最悪の選択をしてしまうダメな父親を完璧に演じきっています。
子供達の病状回復や犠牲の二者択一などでは、外部の専門医を呼んだり学校の先生に成績を聞いたり。挙句の果てにはマーティンを拉致監禁するという、「そういうことじゃないだろ〜!」という悪手のオンパレード。ラストのロシアンルーレット人身供犠に至るまで、とにかく「自己責任感がまったくない男」であり、これは事態の原因となる過去の失敗を遡って強固に裏付けます。
奥さんと娘さんがだんだんと愛想を尽かしてゆく一方で、実は父をリスペクトしてくれていた息子を運命にまかせて失ってしまう……というオチは、なかなかに救いがありませんね。

そしてやっぱりバリー・キヨガン!
今や新世代サイコ俳優の代表格の彼ですが、元を辿れば本作がブレイクスルー。ほんとうに凄まじい役者を発掘したものです。新ジョーカー、これからの活躍に期待大。


胸糞映画の新古典となった本作。
公開当時なにも情報を仕入れず観にいって呆然としたのはいい思い出で、ここから摩訶不思議なヨルゴス・ランティモス、濃厚なコリン・ファレル、すえ恐ろしいバリー・キヨガンたちに対する私の偏愛ははじまったように思います。
マイ・フェイバリットな一本です。