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聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディアのpikaのレビュー・感想・評価

4.0
まんまと面白い。確かに「籠の中の乙女」「ロブスター」の面白さから比べると劣るが充分面白い。文字に起こすとむちゃくちゃ不快な話なのにこちらの後ろめたさや罪悪感を刺激して耐えられるレベルの微妙に嫌な気分に収めてしまうバランスの上手さよ。
仰角と俯角を多用しまくる謎なカメラが面白い。ロングショットも多く、中に入り込んで体感させるより俯瞰で冷静に眺めさせる効果か。
普通のシーンも不穏に変えちゃう音楽もたまらなく好き。たまに台詞にかぶるくらいデカくなるのも良い。煽りに煽るランティモスの淡々と残酷で不条理なムードがめっちゃツボ。
ボソボソと無感情に喋らせる映画は問答無用で好き。たまらん。ブレッソンや黒沢清は自身の演出で語るためにボソボソ演技をさせているが、ランティモスはボソボソ演技も演出もムード作りのためにあるもので、必要最低限のことを言葉説明し、必要以上に語らず煙に巻くという感じ。ある意味で同じく演出によるものだが用途が違う印象。やりすぎているのか黙々と追求しているのかの判断は難しい。
バリー・コーガンくんめっちゃ良かった。最近こういうしょうゆ顔の若い演技派が増えてきているような。ウィル・ポールターとかも。

劇中で「メタファー」「象徴」と言わせて構成を形容しちゃうのはどうなの。
そのネタでどこまで楽しませられるか、嫌な気分にさせるわけだが、映画で終わらず映画を見たあとに観客が自分の心理に気づいた瞬間完成するというのか。これまんまハネケじゃん、と思ったらレビューでみんな言及してた。ハネケの方がもっと踏み込む印象。静かなトーンは合っていて良かったけどそのいわゆる『えぐり出し』の部分は弱い。この内容で笑いは無理か、不条理な笑いではなく不条理なサスペンスなので設定以上の意外性や驚きはない。
「ロブスター」「籠の中の乙女」は独創性のある傑作だったけど「鹿殺し」は思いついてもやろうとしないところに踏み込んでやり遂げた感ある。やる人はいないから個性になりうるけどそこまでランティモスじゃなければならない感じがないような。
ランティモスは好きだが、見るなら他の作品を見れば良いというくらいの物足りなさはあった。
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