にしやん

バンコクナイツのにしやんのレビュー・感想・評価

バンコクナイツ(2016年製作の映画)
3.8
バンコクの歓楽街タニヤに居る娼婦たちと、日本を逃げ出してそこに居ついている日本人たちを描いている群像劇や。ストーリーの中心になるんはラックという名のタイ人娼婦と、彼女の昔の恋人のオザワという名の元自衛官になんねんけど、ストーリーはあってないようなもん。妖しげなタイのネオン、ひな壇に居並ぶ娼婦、タイのイサーン地方(東北地方)の美しい風景と貧困、共産ゲリラの幻影、アメリカによるベトナム戦争の傷跡、タイの音楽、さらにはタイを蝕むHIVやら、あれやこれやと色んなもんがこの3時間に及ぶ映画の中に詰め込まれてるわ。

冒頭の、屋根付き三輪バイクタクシーの「トゥクトゥク」が高速を疾走するシーンがとにかくカッコええわ。音楽かてセンスええし。今からええ映画始まんのやろなあって、何かワクワクさせんなあ。

バンコクのタニヤに集まる醜悪な日本人男性の目的は当然現地の風俗店ということになんねんけど、作品中にも出てくる所謂「沈没組」と呼ばれる日本人やら、単に日本に居らへんようになった人等も居る。例えば、日本人観光客相手のガイドやったり、タイ人娼婦のヒモやったり、日本人をカモにした怪しい商売をやってる人等やな。オザワも「日本に俺のいるとこなんてねえもん」と言うてるように、日本を逃げ出してきた口やな。また一方で、ラックのようにタイ人の女性がタニヤ通りにやってくるのは、故郷の家族を食わせるためや。女性たちの多くはタイ北部のイサーン地方から出稼ぎに来てて、女性たちの稼いだ金で田舎の家族たちは生計を立ててんねん。本作ではそういう多くの人等生きる姿を、非常に克明に、あたかも現実かのように描いてる。

また、本作では東南アジアにおける日本人を鋭い視点で見つめてるような気もしたな。映画に出てくる日本人は、皆「楽園」を目指してタイやラオスに来てる人等や。お世辞にも日本では恵まれた状況にあった人等とはちゃうな。挫折したり、貧しかったりとかでどっちかというと逃げてきたような人等や。そんな彼等が、彼等が「楽園」やと思てやってきたタイやラオスで、今度は逆に現地の人等をこき使て、偉そうに贅沢で堕落した生活を送ってるんや。「楽園」を夢見て先進国から逃げてきた人等が、今度は現地や現地の貧しい人等を踏みにじってんねん。この作品は「楽園を求めてやってきた人たちがその楽園を壊している」っちゅうこの世界中の色んなところで繰り広げられてる構造なり、法則なりを観てるもんに生々しくぶつけてきてるんとちゃうかな。

タイで繰り広げられる非常にカオスな、3時間にも及ぶ群像劇。タイの美しい田舎の風景とは裏腹に、わし等につきつけられる現実には、非常にやりきれんもんを感じてまうわな。凄まじい映画やったわ。果たしてオザワは、手にした銃の銃口を何を向けるんやろか?
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