にしやん

ガラスの城の約束のにしやんのレビュー・感想・評価

ガラスの城の約束(2017年製作の映画)
4.5
この映画は、元ニューヨーク・マガジンのコラムニストであるジャネット・ウォールズの同名回顧録を基に、自分の両親を恥ずかしく思い、過去を隠し続けたウォールズ氏が明かす家族の物語や。
この家族は所謂「機能不全家族」やな。「機能不全家族」っちゅうんは、家庭内で弱い立場にあるもんに対して、身体的または精神的ダメージを与える機会が日常的に存在してる家族状態のことや。主人公のジャネットの育った家庭はまさしくそんな家庭やな。最近はこの「機能不全家族」をテーマにした映画がめっちゃ多いわ。邦画やったら「万引き家族」、「岬の兄妹」、「こどもしょくどう」がそうやし、海外やったら「フロリダ・プロジェクト 」や「チャンブラにて」にてとかもそれに近いな。これらの作品は現在世界を席巻する貧困映画の一系統やと思うねんけど、こういう映画を観ていっつも思うんは、単に収入があれへんからというだけではなく、ましてや怠慢や無能のせいでもなく、行政や社会保障もなんも助けにならへん、この「絶対的貧困」っていったいなんやろ?ってことや。
ただ、本作が他の「機能不全家族」映画とちゃうとこは、それは実話やってとこやな。ほんまに実在した家族を描いているんやから、それはそれで凄いわ。映画やさかいどこまでいっても作りもんとはいえ、リアリティとしての重みがちゃうわな。
ジャネットの育った家庭はオトンのレックス、オカンのローズマリー、姉ちゃんのローリ、弟ブライアン、妹のモーリーンの計6人の一家で、表づらにはどこにでもおる普通の家族に見えんねんけど、オトンとオカンは所謂ヒッピー夫婦で、問題を起こしては、次から次へと土地を移り変わり、税金は支払わず、定職に就かず、自分のやりたいことや夢を追うバカップルや。夫婦二人でやってる分にはかまへんけど、迷惑なんは4人の子供等やで。
まずオトンはもう滅茶苦茶。完璧アル中。働かへん、家に金入れへん、なけなしの金は酒に使う、家族に食事与えへん、子供に教育受けさせへん、子供の金盗む、娘の婚約者殴る、娘の婚約者から金借りようとするとか、もうありえへんのオンパレードや。基本「学校とかいらん」「社会はクソや」みたいな自分の理想や信念を貫いてて、妻も子どもにもそれを押し付けてとる。でも実際のところその理想は単なる口だけで酒飲んで働かへんだけや。オカンはオカンで朝から晩までずっと絵ぇ描いてるさかい、子どもの面倒とかいっこも見いへん。完全なネグレクトやな。映画の前半ではそんな家庭状態でも子ども等はなんとかそこに楽しさを見つけて無邪気に過ごしてる姿が描かれてるけど、後半ではこの家庭というか親とどないして付き合っていくかっちゅう、リアルな対応に迫られる話になっとる。
この作品を観て、絶対に勘違いしたらあかんのは、「どんな親でも育ててくれたことに感謝しよう」とか「表現ややり方が違てても愛情があれば許される」ということになったらアカンということや。このダメダメ両親かて彼等なりには子供等のことは愛してて、まあええふうに言うたら自分等が正しいと信じるルール、道徳、世界観で子供等を育ててただけやし、オトンの言うてることかてええとこだけを抜き出したら「やってることは滅茶苦茶やけど基本はええ親ちゃうん?」みたいになりかねへん。もしそうなってしもたらこの映画はほんまに駄作やと思うわ。
わしは正直言うてこの映画観てほんまに感動してん。ラストはワーワー泣いてしもた。号泣やな。実はわしのおやじも典型的なモラハラおやじで、オカンや子供等に対して傷つけることとかを平気でなんでも言いよんねん。家族に対しては本作のレックス同様めっちゃ愛情のある人やったし、本作とは違て何不自由なく育てられたし、大学までちゃんと行かせてもらった。せやけど、当時はモラハラみたいな言葉はなかったさかい「何やねん、これは?」とずっと感じてたんやけど、今考えたら完全にモラハラやな。今思い出してもほんまにゾッとするわ。ジャネットとおんなじで高校卒業したら家出ることだけを考えてたわ。
わしがこの映画観て感じたことは、種類や程度は違えど親に苦しめられた経験のある人に共通する心情というのがちゃんと描けてたというか、それとちゃんと向き合ってたということや。これはなかなか複雑な心情やね。一言で言うんはめっちゃ難しい。親のやった行為を許す気持ちは絶対にないねんけど、自分の内側に親というもんが確かに存在してて、それを認めない訳にはいかんし、そこから逃げることも絶対にでけへんっちゅう感覚や。まあ家族の呪縛とか牢獄みたいなもんやな。この映画でもジャネットから見て親子三代が描かれてるねんけど、わしははっきりとこの「呪縛」みたいなもんをこの映画に感じたんや。そして、それを、血のにじむような気持ちで向き合おうとし、受け容れようとし、そして乗り越えようとした、ジャネットはじめ、その姉、弟、妹に対してわしは心の底から共感してもたんや。
それと、わしの子供等に対しても。わしの場合、生活困窮とか暴力いうことは絶対あれへんかったけど、色々と事情があって親らしいことは何に一つしてやられへんかった。わしかて子供等をどんだけ苦しめてきたんやろ?と思うと胸が締め付けられる思いやったわ。それらの共感とか悔恨とかの思いが一気にわしの中に込み上げてきて、思わず感極まってしもたんや。
主演のブリー​・​ラーソン​は、今ではすっかり「​キャプテン・マーベル」やけど、​「ショートタイム」とかオスカー獲った​「ルーム」とか、今回の本作みたいな作品のほうが合うてるんとちゃう?どうやろ?
エンドロールの最後は「傷ついても愛し方をさぐるすべての家族におくる」という言葉で締められとった。これもほんまに刺さったわ。こんなんやめてや、ほんま。この映画やけど、少なからず親に苦しめられた経験を持ってる人には絶対に観てほしいわ。みんなそれなりにあるんとちゃうかな?賛否両論は重々承知。感じ方とかも色々やと思うし、感動作とは決して言われへんけど、何かしら感じるもんはあると思うわ。わし的にはごっつオススメや。
にしやん

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