純

ガラスの城の約束の純のレビュー・感想・評価

ガラスの城の約束(2017年製作の映画)
5.0
頬を撫でた風が心地よかったのは、あなたと駆け抜けたからだった。きっと、あなたと見上げた空だったから、わたしはあの金星が欲しくなったんだ。今はもう、夢見ていたガラスの城よりも、遠くで光るあの星がいい。あの星だけは、ずっとずっと、わたしのものにさせていてほしいの。

ひとは、傷つけられたことを忘れない。恥ずかしかったこと、どうしようもなく悲しかったこと、痛くて、心細くて、逃げ出したいと思ったあのときに聞いた、心の扉が閉まる音を、決して忘れはしないのだ。そして、その扉をもう一度開いてみようとする頃には、取っ手が錆びついて、ほんの少し動かすことすら難しくなっている。

呪われてしまう。生き抜くための道は、それしかないと信じ込んでしまう。本当は、壊したり怖がらせたりしなくても、欠けているものを補う方法はあったはずだったのになあ。寂しいときに、我慢して涙に変える以外の、本物の薬が欲しかったね。

赦すとか赦さないとか、そんな区切りをつけられない場所に、不器用で孤独な愛はうずくまっていたのかもしれない。ここまでたくさん騙されてきたけど、あの魔法がなければあの生活に耐えられなかった。でも、あなたがもっと違う方法でわたしたちを守ってくれたら、きっと一緒に笑顔で迎えられた月日が覚えきれないほどあっただろう。足がすくむ恐怖も立ち向かう勇気も、教えてくれたのは両方ともあなただった。もう一生会いたくないのも、どうしても見捨てられないのもあなたで、あなたを表すのに必要な要素として、どっちがより良いのかわからなくなる。

でも、最後に会いに行くと決めたのは、人生で最も大切な瞬間のひとつであるそんな節々に、いちばんそばにいてくれて、もう一度立ち上がる強さをくれたのが父だったからに違いないのだ。父のせいで生まれた不幸せありきの幸せだとしても、あのときに救われたこと。あの日を、なかったことにするなんてできないんだよね。弱い心が共鳴したから、もう一度ふたりで傷を縫い直せたらと思った。あのときはちゃんとできたじゃない、怖くても、泣きながらでも、ちゃんとできたから、だからもう一度だけ傷口をわたしに見せて。

ガラスの城の設計図が、ギリギリのところで父親と娘をつないでいた。たくさん嘘をつかれて、どれも本当のことのように見せていただけだともう知っているけど、でも、あのガラスの城だけは、本当の本当に作ってくれようとしていたって、信じてしまうのはお人好しなのかな。
純