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ダゲール街の人々のいののレビュー・感想・評価

ダゲール街の人々(1976年製作の映画)
4.2
「ダゲール街のこちら側」

自らナレーションをしていたアニエスはそう言っていた。華やかなあちら側とは違う。1975年、ダゲール街のこちら側


パン屋さん、香水屋さん、お肉屋さん、乾物屋さん・・・それは、“なんとか屋さん”という呼び方がよく似合うような街(美容院もあったけど)。ボタン3つで60サンチームとか、パン3コで2フラン5サンチームとか。香水の多くはご主人自身の調合によるもの。買うお肉は1枚か2枚、その場でスライスしてくれる。売買されるのはとても控えめな額。堅実な額。確かに生活する者の額。手から手にわたる品物。包み紙もほぼ不要。


夫婦で営んでいるお店がとても多い。ふたりはどこで出会ったのか、いつ見初めたのか、いつパリに来たのか。質問に対して 控えめに、遠い日の記憶を少しはにかみながら、でも確かな記憶として語る人たち。もう言葉自体をどこかに置いてきたかのような老いた妻もいる。それでもちゃんとふたりで営む。アコーディオンの音。マジックショーへの集い。


アニエスは25年間こちらで暮らしているのだと言う(※撮影当時)。こちら側。それはわたしの街。わたしの愛すべき人々。娘ちゃんもここで育ち、娘ちゃんというよりお嬢さんという呼称の方が似合う女性となって、友だちへのプレゼントの香水をここで買う。


ここに、市井の人々を横に並ぶ者として慈しむアニエスの眼がある。カウリスマキと同じ匂いがする。出逢えて良かった。とても良質なドキュメンタリー
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