トモ

関ヶ原のトモのレビュー・感想・評価

関ヶ原(2017年製作の映画)
4.4
記憶している限り直近の本格歴史映画は井上靖さん原作の「風林火山」、海音寺潮五郎さん原作の「天と地と」、そして今作、司馬遼太郎さんの「関ヶ原」と、どれも名作だが如何せん少ない。

歴史好きとして怒りすら覚える程の作品の少なさ、それは需要と言うより予算の関係なんでしょう(ちなみに「天と地と」は50億円)

原田監督構想25年の中には誰を主人公にするかという事もあったとか。

兎にも角にも家にある「天と地と」DVDをリピートし続けてきた自分としては待ちに待った歴史大作。

この作品、まず驚いたのは原作に忠実な所。

ナレーションといい各場面もほぼ原作を尊重しています。

着色されているのは人の絡みだったり合戦部分ではないでしょうか。

司馬さんの関ヶ原は素晴らしいので忠実に再現するのは納得です。

ただ問題は時間。

歴史小説は忠実にすると時間が足りない、だから名前を借りてポイントを抑える感じになるのだと思います。

今作は凄く上手く構成されているが、忠実にする故に大切な部分を「色濃く」描けていない気がします。

例えば三成と初芽、三成と左近、三成と大谷吉継、家康と本多正信などの重要な場面。

ここはセットにして初めて三成になり家康になる。

特に家康には正信がいて、正信には家康がいて阿吽の呼吸から生まれる謀略、はらわたが煮えくり返るくらい憎らしい2人が表現される訳で、ここが残念なのと正信が普通過ぎる!

正信は一番の憎たらしい悪人として描いて欲しかったくらい。

他に最低限、島左近と大谷吉継はもっと丁寧に描いて欲しかった。

歴史好きな方々は恐らくその足りない描写を各々の思い入れで補っていた事でしょう。

日本の戦国は特に利害で動く武将が多かった、無用な戦をせず家を絶たない為には自然な決断と言えるが、だからこそ義や絆で動いた人達の決断と最期をしっかりと描いて欲しかった

自分はリアルな今作を観ながら義将達の思いを巡らせていたら途中から涙が止まらなくなってしまいました。

ただ全体的な評価としては、

キツめな人物のビジュアルと映像、音楽のマッチングが素晴らしい。

合戦シーンは音楽と効果音を重ねる事で物凄い迫力を生み出していた。

臨場感、戦国感、圧迫感、リアル感に着色するもの全てが素晴らしかった。

台詞、声量、所作、殺陣、ロケーション等戦国を感じさせる

待ち望んでいた歴史大作を作ってくれただけでも感謝なのに、かなりの完成度。

自分は小早川秀秋嫌いでしたが、それよりもこの作品を観て島津軍と毛利軍に激しく怒りと嫌悪感を覚えます。

歴史的に島津の退却戦は神懸かりのように語られてるけど何の魅力も感じない、保全は出来るが天下の器に無いことがよく分かる。

家康嫌いは一貫して変わりませんが…。

そういう意味では原田マジックにやられたなって感じです

人物描写も独特で新鮮でした。

三成の「へいくゎい感」は立派な岡田准一さんだと限界があったけど武将としてのカッコ良さが強調されてたし、有村架純さんは初時代劇とは思えない素晴らしさ。

個人的には関ヶ原の戦いは興味が無かったが掘り下げる事で魅力を増したし、歴史物は後世に残り時代に応じて見方が変わるものだから、この作品を後々観て何を感じるのか楽しみにしたいと思います。
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