dm10forever

映画 夜空はいつでも最高密度の青色だのdm10foreverのレビュー・感想・評価

4.0
【頑張れって何?】

いつも思う。
「東京」ってやっぱり一度は行くべき「目的地」なんだろうか?
よくある設定では日本人が子供から大人に変わるときの通過儀式のように「東京」が使われる。
時に「成功を掴んでビッグになる者」も描かれることはあるが、やっぱり多いのは「夢が夢だったと気がつかされて、現実に流されるがまま、かといって逃げることすら許されない存在」のメタファーとして使われること。
実際に東京に住んでいる方のことではないですよ。むしろ「東京」という場所を特別に祀り上げている人達のことです、僕も含め・・・。

この物語は一応ラブストーリーの体を成している。
でも惚れたはれたのフワフワした感はこの二人には全くない。それどころか相手との距離感も掴めず、手探りで相手の「色」や「形」を探っているかのようにすら見える。
お互いどうしてよいのか判らなくなってしまい、多弁になる。
二人が「どうして東京にいるのか?」「東京に何を求めているのか?」は語られない。
何故なら「東京」が現しているのは『圧倒的大多数の中にある絶対的孤独』。その最たる例として表現しやすいのが日本一の大都会である東京であるというだけのこと。
都会が人を孤独にするのか、孤独な人間が都会に吸い寄せられるのか・・・。

主人公の二人はそれぞれに閉塞感や孤独、先行きの不透明感など、まさに現代の若者が抱える問題をそのまま投影していた。
彼らの空虚なまなざしを通してみる池袋や渋谷など煌びやかな場所が「砂上の楼閣」にすら見えるギャップは見事だった。
夢がなきゃ生きてちゃダメなのか?

今、目の前にいる人が好きだ、ただそれだけじゃダメか?

背景で繰り返される居酒屋でのバカな乱痴気騒ぎシーンは、
「ここには入りたくもないし、入る気もない。」と観ている側すらも客観的に思うシーン。
だけど、日常的に繰り広げられているシーンでもある。そこに悪意はない。
ただ、あんな人達でも「仲間内」で楽しく飲んでいる人達であって、そこにすら入っていない自分には猛烈な孤独感、疎外感が襲ってくる。

孤独+孤独=?

孤独なもの同士がくっついたら、お互いの傷を癒しあうことができる?
そんなことないと思う。孤独は目の前に誰かがいるからといって癒されるものではない。
むしろお互いの闇の深さを知るにつれ、絶望のビッグウェーブが襲ってくるかもしれない。
所詮、孤独は孤独。誰かが救ってくれるようなものではない。
キツイ言い方かもしれないけど、孤独は「自分が作った殻」。
自分でその殻を破らない限り孤独は終わらない。

今の日本をどんよりと覆いつくす閉塞感は、何も若者達だけの専売特許ではないだろう。
腰を痛めても、ガールズバーに行くお金がなくても、コンビニの店員の女の子に恋をしてでも案の定ふられても、それでも今日も明日も「ざまあみろ!」と言いながら生きている。
僕は岩下さんのキャラクターが好きだ。
情けないオッサン・・・うん、間違ってない。
世間からも、若い奴らからも見下され、自分自身明日のことなんか考えられずに今日だけを生きている。重いものを持ち続けて、手に力が入らなくなってズボンのチャックすら上げられないけど、それでも前向きに生きている。彼に関するエピソードは全て彼が語るだけだったけど、何故か周りが見える気がした。といってもコンビニちゃんの話ばっかりだったけど・・・。

美香と慎二は結局「殻」を破れたんだろうか・・・。
ストリートミュージシャンの子は、何があっても東京で歌い続けた。雨が降ろうが観客が誰も居なかろうが。誰も他人の事になんて見向きもしない。そんな感じだよね。
だけど、見てる人は見てる。評価してくれる人は必ずいるんだよということを暗に教えてくれる。
二人にとってはお互いが「偶然出会った人」から「自分を見てくれる人」に変わっていく経過ともシンクロしていてわかりやすかった。

けど・・・この手の映画って、レビューが書きにくいね。
心には凄く色んな感情が渦巻くけど、言葉にしようとすると、途端に形がわからなくなる。
こういう時は無理に形にしないほうが正解なのかもね。
dm10forever

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