一

一晩中の一のレビュー・感想・評価

一晩中(1982年製作の映画)
-
ブリュッセルの暑い夜を舞台に、断片化されたメロドラマ的クリシェを演じるほとんど匿名の人間模様。凡庸な、そして強烈な瞬間・瞬間が数珠繋ぎに連続する。抱擁する男女、恋の相手に会いに向かう女、遠く離れた恋人からの電話を待つ男、散歩に出掛ける熟年夫婦、猫を抱いて家出する少女、etc.、etc.、そのどれもが画面に現されない彼/彼女らの時間を不可抗力的に想像させる。何故なら、ときにロマンチックで、ときにエロチックで、ときにセックスの予兆と緊張を孕んだ、これらドラマチックな瞬間は過去の様々な物語の援用であり、観客は既にそれを知っているからである。それぞれの観客の中で、この一晩はあらゆる形に広がっていく。それは、もしかすれば自分自身の物語かもしれない。電話口から聞こえる相手の言葉にすべて“oui”としか答えられない恋愛の姿。ロラン・バルト『恋愛のディスクール・断章』もこんなふうに読んだような。胃もたれするようなあのラブソングが頭に残ってしまう。
一