ユーライ

機動戦士Zガンダム III -星の鼓動は愛-のユーライのレビュー・感想・評価

5.0
新訳三部作で一番面白い。冒頭の会談を除けば90分の尺を使ってずーっと戦いっぱなし、三つ巴の権謀術策渦巻くカオスな戦場という『Z』の旨味が抽出されている。登場人物各々が異なる思惑を持ちながら好き勝手に行動し、状況が瞬く間に推移していく富野ならではのドキュメント的な状況劇が片時も途切れない。どんなタイムスパンなんだとも思うが、どうせ再編集映画で整合性が取れないのだから時制を中途半端に気にするよりは正しい。また、シロッコが何故ラスボス足り得るのか説得力を持って描かれているので大分見やすい。TV版では何を考えているのかすら分からなかったのに、女を利用し遊びながら戦争やっている糞野郎であることが鮮明になった。ジャミトフを暗殺する時に呟く「若い女を口説けなかったな」。まーファーストガンダムの劇場版三部作が予備知識を必要とせずに燦然と輝く名作であるのと比較すれば、『Z』新訳三部作は既存のファンでなければ振り落とされる、出来の悪いコラージュ・フィルムだと結論せざるを得ない。『めぐりあい宇宙編』で描き下ろされた安彦良和の新規作画のような、単純にアニメーションとして際立ちメルクマーク化するシーンを作れなかったのは決定的。そういう意味で一番印象に残るのは『I』でガルバルディにカマしたMk-IIの回し蹴りになるか。しかしですね、カミーユに感情移入しながら見ている俺からすれば、彼が精神崩壊せずにファの元へ帰ることが出来てああ良かったね本当に良かったねとしか言いようがなく、これじゃ台無しという意見も分かるけれど、救いのあるラストの一点だけで新訳の価値はあると思った。Zがウェイブライダー形態から人型に戻り、カミーユは死者の怨念から解放される。この世に留めるのは好きな女の身体なんて恥ずかしいくらいの結論。照れを誤魔化す為か、最後の台詞は「子供の戯言を聞けるか」だ。全てを喪った少年にも帰るべき場所はあった。TV版の磁場を振り切るお祓いのような四時間三十分。別にそれで文句ないよ。
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