いの

満月の夜のいののレビュー・感想・評価

満月の夜(1984年製作の映画)
3.8
「喜劇と格言劇」シリーズ④
   今作の格言
〝二人の妻を持つ者は心をなくし
二つの家を持つ者は分別をなくす〟

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パスカル・オジェのカリスマ性に刮目せよ。フェミニンな声。完璧とはこのことを言うのだと確信してしまうほどに、完璧で美しい肢体(時に腰回り)。のっけから彼女に惹かれまくった。彼女は、こっちにいたらあっちに行きたくなり、あっちにいたらこっちに戻りたくなる。彼といたら彼から離れたくなり、彼と離れていたら彼に会いたくなる。彼との関係がうまくいっているからこそ他者と関係を結びたくなり、彼との関係が満ち足りていなければ彼を求める。それは決してないものねだりなんかではない。あるものねだりなんだと思う。ないものを欲するわけではない。そんな気がする。

お洒落な彼女が持つのはいつでも大きな網の目のようなバッグで、そのバッグは2つある。そのバッグもいつでも取り替え可能。中身さえしっかりしていれば、外見は替えられるのだという象徴なのだろうか。ふたつでじゅうぶん、ってことなのだろうか。網の目バッグの中身は、赤い布で覆われていて決して中身が見えることはない。ざっくりした網の目は、あけすけに喋る象徴で、赤い布で覆われて決して見せない中身が、自身の意識下にあるものなのかもしれない。


エリック・ロメール監督作品の登場人物たちは、みんなあからさまに正直に心のうちを語っているようにみえる。ここまで語るのか、と思うほど。でも、ほんとうのところは、表層的な語りの下にあるのではないか、とも思う。満月の意味。終盤の深夜でのカフェ?での会話。最後まで観るとさらにタイトルとてもステキだ。
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