映画を見る猫

牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件 デジタル・リマスター版の映画を見る猫のレビュー・感想・評価

4.0
権利の関係で、なかなかDVD化されなかったエドワード・ヤンの作品。
という前情報しかもたず寝る前何の気なしに観賞したら、とんだ大長編で思わずうたた寝してしまった。

ひしと離さなかった、お守り代わりの懐中電灯を物語の最後で彼はふと手放してしまう。
貧しい光に引き寄せられる小虫に宿るような盲信は、一瞬の暗闇で容易にさ迷う狂気へと変貌する。
その過程を、どこまでも丁寧に描ききった本作に、好感をもたない映画好きはほぼ皆無といっても過言ではないだろう。

ヒロインの小明は、当然のように無垢をまとう年頃でありながら、あらゆる男たちを惑わすファム・ファタールとして、あまりに成熟し過ぎている。
ぱんと無邪気に放たれた銃声。
その気軽さと同じように容易く、多くの人生が時代の荒波に弄ばれたのだろうか。

小明は、決して立ち上がらない。
それなのに血まみれの小四はそれが、何故だかわからない。

諸外国の思惑に翻弄されて揺らぐ不安定さを、映画のなかの少年少女の危うさに見るならば、私は台湾のことを何も知らないのだ、と深く反省した。