ガンビー教授

ムーンライトのガンビー教授のレビュー・感想・評価

ムーンライト(2016年製作の映画)
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「まなざす」ということは、愛することである。少なくとも本作の中では。

最初のうちは、カメラが陶酔的&饒舌過ぎやしないかと少しひねた目で見ていたが、物語を追って行くにつれ、むしろ極めて繊細な仕事をしているな、と思うようになった。

被写界深度が浅い。つまり、ピントの合っている範囲が狭い。また、引きの画は少な目。役者を撮るときは顔のアップなどが多い。

これはつまるところカメラが主人公の内面を反映していて、彼の見た世界がそのまま画面に描かれている。その時々の不安、情動の揺れ動きが映像に落とし込まれている(だからこそ、あるていど自我が安定してくる成人期に入るとカメラも落ち着いてくる)。

光のとらえ方、画面に映る色のデザインなど、極めて洗練され、計算されている。それは彼の内面を鏡として反映された世界の姿であり、主人公の静かな孤独と苦しみがその中にあって引き立つ。このトーンが通底しているからこそ、3人の役者を用いて描かれた3つの時期の物語が、一人の人間の心理を描いたつながったストーリーとしてすっと受け入れられるようになっている。

目。役者はみんな目つきが似ていて、その目によって同一の人間であるという設定をすんなり受け入れられる。彼のまなざしと、それを反映した美しい映像。それによって理解できることがある。

まず、まなざすこと……人を見つめることは愛することである。だからこそそれを拒絶されるのは辛い。

そして、愛だけが、生来孤独なわれわれ同士の内面に触れあうことができる手段である。

人が誰かのために料理を作り、相手がそれを食べる、という極めてありふれた行為を目の当たりにして涙が出るとは思わなかった。日常的な営みの範疇に過ぎないこういった行為には、確かに愛がある。孤独な心が他人の心に触れあう瞬間である。

そして荒れた家庭で育ったわけでも売人でもなく、黒人でもなければLGBTでもない観客でさえも、スクリーンをまなざすことで彼の内面に触れることができる。まさに表現の力と呼ぶべきだろう。
ガンビー教授

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